スズムシやマツムシなど「鳴く虫」の音色にほれ、趣味を仕事にした鳴く虫研究社 後藤啓さん
10年がかりで探し当てたカワラスズ
― 本にはどのようなことを。
これまでも飼い方について書かれた本はいくつもありますし、ネット上でもたくさん情報は出ています。でも、捕り方についてはほとんどだれも書いていないんです。それならば私が書こう、と。6歳の時から自分なりに編み出したやり方を本では惜しみなく公開しています。
例えば昼間、葉先に止まっているキリギリスは2メートルほど近くに寄ると鳴き止み、1メートルまで近づくと地面に下りて隠れてしまうので見つけるのが難しくなります。ところが夜、葉先に止まっているキリギリスは捕まえようと手を寄せても逃げないので簡単に捕まえられるんです。夜目が利かないキリギリスは夜のほうがよほど捕まえやすいのです。
キリギリス以外もどっちかというと夜採集することが多いです。日中11時から15時くらいまでは暑くて体にこたえるので、やらないようにしています。多くの虫は夜鳴くので、居場所が特定しやすいですしね。
虫捕り網は幅60センチ、深さ70センチあるものを使っています。それくらいでないと網に入ってから逃げられるんです。けっこう跳躍力ありますから。採集も大変ですが、実はそこにたどり着く前に生息地を見つけ出すのに苦労する虫もいます。清流にしかいないというカワラスズは見つけようと思ってから実際に見つけるまでに10年かかりました。
岡山や三重まで足を延ばしたこともありますが空振りばかり。30カ所ほど回ってやっとある川で見つけたときには思わず「おったー」と叫んでしまいました。どこの川か、って?それは企業秘密です。
きれいな鳴き声のために、えさの原料はすべて国産
― 品ぞろえはどれくらい?
20種類強です。捕まえやすい、捕まえにくい関係なく、人気種をそろえていくとこのくらいになります。人気種というのはつまるところ鳴き声がきれいな虫のことです。その中でも鳴く虫通に特に人気なのはヒバリ類と呼ばれるヤマトヒバリ、キンヒバリ、カヤヒバリ、クサヒバリ。鳴く虫はだいたい8月初旬に成虫になってから鳴き始めて死ぬまでの11月中旬頃まで鳴きます。ところがヒバリ類の中でもヤマトヒバリ、キンヒバリ、カヤヒバリは二化性といって6月と11月頃の年2回ふ化します。秋にふ化した成虫はそのまま越冬して翌年2月に気温が14℃を超えたあたりから鳴き始めます。ただ真冬でも暖かい部屋なら鳴くのでお正月の頃でも鳴き声を楽しめるのです。そのあたりが人気の秘密なんでしょうね。
一番値段が高いのはヤマトヒバリで、オス2500円、メス1500円、セットで4000円です。ヤマトヒバリは去年までわたし一人しか売っていませんでしたが、テレビ番組で値段を公開したらわたしのほかにもう1人売り始めました。
― えさにも梱包にもこだわっているようですね。
原料に使っている大豆、米ぬか、玄米、鮒粉はすべて国産で、無添加です。安く上げようと思えば海外産の原料を使えばいいんでしょうけど、やっぱりいいものを使うと食いつきがちゃうんです。食いつきがいい虫は元気やし、鳴き声も元気できれいです。その分、通常のえさと比べると2.5倍位しますけどね。
虫を送る際の梱包にも神経を使っています。届いた虫が元気なかったり、足が取れていたりしたら悲しいでしょう。まず虫をカップに入れて段ボールの中でカップが動かないように固定しています。もちろん呼吸もしやすいように考えています。
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