創業者がこだわった「濃いコーヒーの極み」を 製品化と店舗展開でより身近に
創業者はもともと洋食レストランのオーナーシェフだった。コースの最後に出すコーヒーを求めて研究に打ち込み、独自に抽出器具まで考案。昭和初期に丸福の代名詞である「濃いコーヒーの極み」を生みだした。こだわりが強く「自家焙煎、器具、職人がそろって初めて味は保たれる」と店を2代目に任せた後も新規出店、商品開発の誘いを断り続けてきた。これを説き伏せたのが、3代目の伊吹氏だ。「祖父がつくったコーヒーを身近な存在にし、おいしいと飲んでくれる人を増やしたかった」。
開発商品の第1弾は「瓶詰めコーヒー」。職人が抽出したコーヒーを、アンティークスタイルの角瓶に収めて店で売り出したところ、「懐しい」が「新しい」と評価され、百貨店や高級スーパーを皮切りに、全国各地から「うちでも売りたい」と声がかかった。保存料を使わない商品をどう末端まで迅速に届けるかが課題となったが、各地の物流会社と交渉し、空輸で1~2日で店頭に並ぶ体制を整備。その後、レギュラーコーヒー、コーヒーゼリー、プリンなどアイテムを増やしてきた。
商品が全国に行き渡り、丸福ならではの濃いコーヒーの味が広く認知されるようになると、今度は喫茶店の出店要請が増えていく。秋葉原や羽田空港など首都圏への出店を果たし、昨年オープンしたJR大阪三越伊勢丹では、フロア別で女性向け、男性向け二つの店を任された。「丸福の商品を知った人が店へ足を運び、店に通っていた人が商品を買うというように、商品と店とがいい相乗効果を及ぼしあった」。現在は店舗の売上げと商品の売上げが半分ずつを占めている。
「初代、2代目が作り、育てた丸福の味を知らない人、世代にどう伝え続けていくか」が現在のテーマ。店では、フラワーアレンジメント、食器の絵付け、筆遊びが学べる場も設け、人気を呼んでいる。「戦前、戦後は祖父を慕って文化人、芸術家が集まり、喫茶店はサロンの役割も果たしていた」という歴史から学んだ仕掛けだ。また、昨年秋には、人気キャラクター「リラックマ」とのコラボ商品を開発するなど若い女性をねらった新たなチャレンジも始めた。創業者の思いを大切に、これからも「守りながら攻める」つもりだ。
▲創業者が考案した手づくりの抽出用ドリッパーは今なお使われ、丸福ならではの味を提供している。
▲商品開発第1号となった「瓶詰めコーヒー」。瓶は、アンティークの瓶を探し出した中から選んだもので、もともとはソース用に使われていた瓶だという。
▲「サロン・ド・丸福」では、店内でフラワーアレンジメント、筆遊びなどを学ぶことができる。
▲店舗によって趣は異なる。提供するコーヒーの味は同じでも「他のお店にも行ってみたい」と思ってもらえるようなコンセプトのもと店づくりをしている。
▲紙おしぼりにあしらわれた「丸福珈琲店」のロゴは昔のものを復刻して使っている。おてふきや紙ナプキンは創業当時のままのデザイン。