【ロングインタビュー】日本型農業モデルをカンボジアへ“輸出”
―ビジネスとして成り立つまでにどのくらいかかりましたか。
最初の2年はほとんど生活できませんでした。朝の8時から夜の2時まで100連勤以上したこともありますが、それでも日本に帰ったら、失業手当をもらっている人のほうが収入がよかったです(笑)。
税金や制度にも悩まされました。外資に対しては取締りがきつく、ローカルには取り締まりが甘いんです。赤字でも、売上の1%が税金として徴収されます。経費においてもオフィスの賃貸料や交通費などを計上すると、特別な税金がかかってきます。
あと、年間30日近くある祝日の多さもネックになりました。祝日は普段の給与の200%を人件費として拠出するので、実質的に年間人件費を12ヶ月で計算するのではなく、13ヶ月で計算しておかないといけなかったんです。それらのことを考えると、日本で行う営業利益率が10%近くの高い利益率の事業をつくらないと事業として成り立ちません。
すべてを考慮に入れてビジネスモデルを考えないといけませんでした。慣れないローカルマネジメントにも悩み、出資金は底をつき、個人的な借り入れもしてしのぎました。
それでもあきらめるという選択肢はありませんでした。僕たちの会社が終わったら日本の農業は終わる、僕たちが新しい日本の農業の海外展開のモデルをつくれば後に続く日本人も出てくるだろう、と。だから絶対つぶすわけにはいきませんでした。
その中で浮上するひとつのきっかけがありました。僕が体調を壊し、帰国したときに夜中に倒れ、緊急搬送されたことがあったんです。そのとき妻のお腹には子どももいて。このまま僕自身が壊れてしまったら、家族にも、周囲の協力していただいた方にも迷惑がかかると思って、カンボジアに戻ったとき、「一切現場の仕事はしない」と宣言したんです。現場でどんなミスが起きてもそれを解決するのは現場のスタッフであり、ぼくは社長としてやらなければいけない仕事だけをすることにしたのです。
そうすると徐々にローカルのマネージャーのモチベーションが上がり、今ではすべて現場で解決してくれるようになりました。ようやく企業になり、黒字体質に転換することができました。現在の従業員は23人で、うち日本人は3人です。
―日本の農業が優れている点はどこにあるのでしょうか。
一番は、全国どこへでも安全で均一な品質の農作物を届けることができる、ということではないでしょうか。安全とはすなわち防除の問題です。農作物を生産する上で農薬は必要なものです。ただ、防除のアプローチ法としては、農薬を使う化学的防除のほかに、普段の手入れによる耕種的防除、資材を使った物理的防除、天敵などを使う生物的防除の4つがあり、日本はこの4つをうまく使って防除する技術に優れているのです。
なぜそういうことができたのかを考えると、結局は日本の農協(JA)と農業政策があまりにも優れていたということに行き着きます。農協が地域の共同出荷場になって生産者をまとめ上げ、併せて農業技術も高めていく仕組みができていたのです。それを裏付ける技術の確立は公設の農業試験場が担っていました。
なので、私たちが現地で協力していただく農場は基本的な技術を習得しており、コミュニティができているところを選んでお願いしています。具体的に言うと、コミュニティをまとめる主体者がいて、現地NGOから農業技術の指導を受けてきたところを選んでします。
現在の事業は4つ。一つ目が日本からの農作物の輸出。カンボジア、タイ、マレーシア向けにカキ、イチゴ、ブドウを輸出しています。2つ目が現地で生産したブランド野菜の販売。カンボジアで4カ所、計10ha分の農場でオクラ、キュウリ、トマト、バジル、レタスなど約20種類の野菜を通年で生産し、現地のスーパー、ホテル、レストランに卸しています。
3つ目が、飲食店向けの青果トータル物流事業。レストランやホテルに年間を通して野菜40品目、果物20品目を安定的に供給できるようにしています。4つ目が、ホテルやレストランへの食品卸です。日本からの輸入品などを扱っています。
―海外で農業を事業として進めていくことの可能性についてどのようにお考えですか。
海外で農業をやるほうが簡単というイメージがあるかもしれませんが、日本でやるよりはるかに難しいですね。相当の信念がないとできないでしょうし、それこそ血のしょんべんが出るくらいの覚悟がないと続かないです。
今後は、カンボジアで提携農家を増やし、農協型ビジネスモデルを展開していこうと考えています。そしてASEANの各都市に卸し先を増やしていきます。また、これからは付加価値が高く賞味期限の長い漬物などの加工食品を開発し、現地の人が手の届く価格帯でアジアに売っていこうと考えています。
株式会社ジャパン・ファームプロダクツ(カンボジア)
代表取締役社長
阿古 哲史氏
資本金/10,000ドル 従業員数/26名 設立/2012年
事業内容/野菜・果物の現地生産及び提携生産、日本の農産物及び加工品と現地生産野菜の販売、農産加工品の開発。