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【ロングインタビュー】常に背中を追い続けた父が突然他界、二代目社長の組織づくり。

2015.01.09

―どうやって課題を解決していったのでしょうか?

当時の私の最大の目的は「引き継いだ会社を潰さない」ことでした。その意味でいうと、売上は順調に伸びていたので目的は達成していたといえますが、でも人は一向に定着しない状況が続いている。それでも人手は必要なので優秀な人に何とか来てほしい……。

そうして経営者として暗中模索を続けていたときに転機が訪れました。2008年にある組合の後継者・若手経営者育成研修会に参加したのがきっかけで、「会社を潰さない」から、この仕事に特化した「地域医療に貢献できる企業になる」という経営理念が私の中に生まれたんです。会社を潰さない経営はできているかもしれないけれど、この先自分は会社をどの方向に導いていきたいのか――そう自問自答したときに出てきたのが「地域医療に貢献できる企業になる」という思いでした。

この経営理念を社員に伝えて組織を束ねようと思ったんです。ところが社内で発表しても社員は上の空状態で、まったく心には響きませんでした。さらに理念を追求するほど結局は売上の追求に帰着してしまい、かえって逆効果にすらなってしまった。これではだめだと理由を考えた結果、ただ理念を語るだけではなく、この会社はどのような人材を求めているのか、自社の考えや価値観を打ち出さなければならないと考えたのです。

そこで経営理念に「みんながハピネス」という一文を加えると同時に、社員から「三嶋商事に入ってよかったと言ってもらえる会社になる」というビジョン(一部抜粋)を作成。ともに働く社員はファミリーであり、ファミリーの幸せを願う私の思いを言葉で表しました。

さらに、経営理念とビジョンを達成するための行動指針として「コアバリュー」を作成し、経営理念・ビジョン・コアバリューをつくった背景を自分の言葉で説明するため、カルチャーブックと呼ばれる小冊子にまとめ上げました。当初は20ページ程度でしたが、いまでは120ページを超えるボリュームになっています。

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このカルチャーブックを社内で発表する際、「これを熟読してほしい」「もし価値観が合わないと思えば辞めてもらってもいい」と伝えました。正直、怖かったですね。何人か辞めるのを覚悟して発表したのですが、時間的に仕事にそこまで専念できない主婦の方が1名退職したのみでした。それからも社員の入れ替わりはあるのですが、経営者として1つの山を越えたと感じました。

カルチャーブックは社員に熟読してもらうことに加えて、採用時にも活用するようになりました。これを読み、当社と価値観が合うと感じた人だけ面接に来てもらうようにしたんです。120ページ以上もある冊子を自分でプリントアウトして読む行為自体がまず大変ですし、さらに書かれている内容が自分の考えと合うかどうかというハードルもあります。これらのステップを踏むことで面接前にある程度選別でき、ミスマッチの軽減につながるようになりました。

このカルチャーブックの作成と同時に、組織改革もハイスピードで行いました。営業管理や在庫管理、経理システムなどを一元化するためにクラウドを導入し、社内の連絡事項や日報といった情報管理も同時にシステム上で行うよう改革。また外部の専門家の力も借りて、税理士さんやコンサルタントにアドバイスをもらいながら組織体制を構築していきました。

この時期に母親が引退したことも、組織づくりの転機になりましたね。私が母親から会計を引き継ぐためには現場を離れる必要があり、配達や仕入といった現場業務を社員にすべて任せることにしたんです。当初は不安で仕方なかったのですが、思い切って任せると、ちゃんとやってくれるんですよ。同時に権限も委譲することで仕事に責任感を持つようになりましたし、私自身は母親から会計知識を吸収できたとともに、会社全体を見るという経営者本来の仕事に集中することができるようになりました。

ここ1~2年でようやく自分が思い描いてきた組織の姿になってきました。実は先日足を骨折して1ヶ月入院したんですが、社員が何の問題もなく現場で仕事を回してくれていました。私には電話すらかかってきませんでしたしね(笑)。社長がいなくても業務が順調に回るというのは、ある意味理想的な組織だと思います。

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―新規事業もはじめられたそうですね?

1つはネットショップの立ち上げです。社員から「ホームページくらいあったほうがいいですよ」と提案を受けて、どうせつくるなら商品を販売する機能を持たせようと考え、自分で作成することにしたんです。専用ソフトを買ってきて、半年間かけてネット通販ショップ「ビースタイル」を2009年5月にオープンしました。1500アイテムの成分表をすべて手打ちするなど骨の折れる作業でしたね。

ネットショップ経由の売上は順調に伸びて、オープン1年後には月商400万円になりました。これを機にサイトをリニューアルし、いまでは卸事業の売上をしのぐまでに成長しています。

2010年には100%子会社の株式会社C・S・BOM’Sという会社を設立しました。これは将来起業を志している学生さんに事業運営を一任している会社で、「特食動画」と呼ばれるサイトを運営してもらっています。特食動画とは、当社で扱う治療食や介護食の紹介動画や、それらの商品を使ったレシピの手順をまとめた動画です。この動画の作成を学生さんに任せ、ネットにアップしてもらっています。特食動画とビースタイルを連動させているので、動画を見て興味を持ってもらった人がビースタイルで商品を購入してもらえるような仕掛けにしています。手探りの活動ですが、ビースタイルとの相乗効果が生まれることを期待しています。

―今後の展望をお聞かせください。

1982年の創業以来、お陰様で売上は右肩上がりを続けています。成長軌道を維持しながら、2年後を目途に売上10億円の達成をめざしています。そのためにビースタイルの中国版を立ち上げ、海外市場の開拓にも注力していく考えです。とはいえ事業の軸足は今後も日本国内に置き続けることに変わりはありません。ネット通販も国内の掘り起しがまだまだ必要ですから。海外展開は今後を見越した模索の一環です。

父親は厳しい人でしたが、常に感謝を忘れない人でした。父を倣って、毎朝、神棚に手を合わせ、社員の安全と商売繁盛を祈願しています。地域医療に貢献できる企業を今後もめざしていくとともに、社員みんなのハピネスを追求していきます。

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(取材・文/高橋武男 写真/福永浩二)

誌面で紹介した記事はコチラ
→ 夢あきらめ、家業へ 社員と自分を変えた行動指針

三嶋商事株式会社

代表取締役

三嶋 賴之 氏

http://www.mishima-s.com/

治療食・介護食の卸事業を展開。09年にネットショップ「ビースタイル」を立ち上げ、いまでは卸事業の売上をしのぐ。