あきらめずに仕組みをアップデートし続ける
「今日からお前がトップだ」。ニューヨークでITとファッションを掛け合わせたビジネスで起業し、シリコンバレーでもエンジニアとして勤務した戦氏が、家業に戻ってきた4年前の出勤初日。先代からの無茶ぶりのひと言に本人も社員も驚いた。だが、エスニック雑貨卸・小売業界で名をはせたかつての勢いが衰えて久しかっただけに、それはすぐに「アメリカ帰りの息子なら状況を打破してくれるのではないか」という期待感に変わった。何より当の本人も「仕組みさえ変えればすぐに立て直せる」という自信に満ちていた。
心掛けたのはボトムアップだ。全社員に、会社の良いところを青い付箋に、悪いところを赤い付箋に書いてもらい壁に貼り出したところ真っ赤に染まった。その中で優先順位をつけ、柔軟な働き方を取り入れた。京都、大阪、神戸に展開していた小売店を閉鎖し、卸売りに特化する決断にも踏み切った。さらに組織を年功序列型からジョブ型に変え、インテリア雑貨の 「世商品開発はデータ重視のマーケティングを導入した。
だが、コロナ禍、さらには円安も追い打ちをかけ、見違えるような成果はまだ出せていない。ボトムアップにゆだねていては限界がある、と今年からトップダウンの手法を取り入れるべく外部のコンサルチームを招へい。10月には3つあったすべてのブランドを、ストーリーを持った商品を扱う新ブランド「shesay」に統合した。「社員にとってはやることが多く、疲弊させてしまっている。だが、答えが出るまで忍耐強く仕組みをアップデートし続けるのが僕の役割」と自戒を込めて語る。
もともとITが好きだという戦氏。大手雑貨店をターゲットにこのほど、オンライン上でARを活用し商品のサイズ感を確認できるだけでなく、スタッフが商品の良さを3D動画で説明できる機能も付けたシステム「デジアル」を開発した。「結局なぜ買うかを突き詰めると、スタッフの力量が大きい」との考えからデジタルとリアルを織り交ぜた。「数年後にはARが当たり前の時代がやってくる。一足早く準備をしておきたい」。
本業ではAIカメラとQRコードを使った無人店舗を設け、集めたデータを取引先の販売に役立ててもらうことも考えている。一方、デジアルを数年後には世界で広く使われるサービスにしたいと意気込む。「本業はものづくり。デジアルはITで一見対極にあるものだが、それぞれがデータでつながり、いずれ助け合える存在になれる」と信じ、アップデートを続ける。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)