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穏やかに、気負わず、わくわくするお菓子を

2022.12.02

制作会社でWebデザイナーとして働き、世界で活躍することを夢見ていた佐々木氏の体に異変が起きたのは30代前半の時のことだった。乳がんとわかった。幸い早期発見で大事には至らなかったが、深夜まで働くこともいとわなかった佐々木氏の人生観がそこで変わった。「時間に限りがあることに気づき、今大切にすべきものが見えてきた。それは家族だった」。それまでつゆほども考えたことのなかった「家業を守りたい」という意志が芽生えた。「やろっかなあ」。そう伝えたところ、父は「ええんか」と聞いただけだったが、あとで「うれしそうにしていた」と母から聞いた。

取締役 佐々木 雅子氏

入社後まず手掛けたのは会社のWebサイトのリニューアル。さらに「ちょこ掛け屋」という自社ブランドを立ち上げた。1929年の創業時から金平糖、さらに80年代からは蜜やチョコをコーティングして作る掛け菓子を製造し、土産物屋などに卸していたが、BtoCに打って出たのだ。パッケージのイラストではチョコ掛け屋を継ぐ「かけ美」さんと会計士の「かけ郎」さんのラブストーリーが展開される。「ほっと気持ちが和らぐお菓子の力」もあわせて発信していこうとしている。

3年前には金平糖のブランド「金平堂(KONPEIDOU)」も立ち上げた。自然素材にこだわり、未精製の甜菜含蜜糖を原料として選んだ。ほろっとした歯ごたえとやさしい甘さの上に抹茶やほうじ茶などでコーティングし、金平糖を現代風にアレンジ。一般消費者だけでなく、法人向けの引き出物やノベルティとしての需要もしっかりつかんでいる。「父は何も言わず、すべて私のやりたいようにやらせてくれた」と感謝を忘れない。

「素材、形、フレーバーをどうしようか」「全く新しいお菓子もつくってみたい」とあれこれアイデアは尽きない佐々木氏だが、大切にしているのはがんばりすぎないこと。「穏やかでいたいんです。だからうちはやたら休憩が多い」と笑う。最近は、「私の抜けているところをサポートしてくれるしっかり者」の姉・森 章乃(ふみの)氏も力強い援軍として加わった。従業員は9人。「自信を持って、良い素材を使ったおいしいものを手ごろな価格で提供できるちょうどいい規模」と、会社を大きくすることは考えていない。数年後には父からの事業承継のタイミングを迎えるが「気負うことなくわくわくするようなお菓子を作り続けていきたい」と考えている。

左から取締役 佐々木 雅子氏、森 章乃氏

(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)

株式会社佐々木製菓

取締役

佐々木 雅子氏

https://www.sasakiseika.co.jp

事業内容/金平糖、チョコレートなど掛け菓子の製造・販売