「へこたれない遺伝子」で次の100年を
不変の品質を謳う「不易糊」の誕生
黄色の本体に赤色の帽子、クリクリの瞳が印象的な糊の容器を見て懐かしい思いに浸る人は多いだろう。これは不易糊工業が発売する「でんぷんのり」で、キャラクターの名前は「フエキくん」。「商品の確かな品質と犬をモチーフにしたキャラクターが絶大な支持を得て、いまでも幼稚園を中心に年間50~60万個を販売しています」と社長の梶田氏は説明する。
「でんぷんのり」の誕生は100年以上前に遡る。1886(明治19)年、八代目・足立市兵衛が不易糊工業の前身となる足立商店を創業し、地場の物産を扱う商売を行っていた。創業者を始め足立家は根っからの研究者肌でゴム工業に進出するなどさまざまな事業を展開するなか、「糊がすぐ腐る」との主婦の声に応えるために腐らない糊の開発に乗り出す。
先例がない中での開発は困難を極めたが、ドイツから帰国した研究者から保存料のホルマリンの存在を聞き、日本初の〝腐らない糊〟の開発に成功。1895年に「不易糊」が誕生した。荀子の「萬世不能易也」に因んで命名され、いつまでも腐らず不変の品質を誇るという意味が込められている。
「フエキくん」は基本品質のシンボル
その後、1925年に「不易墨汁」、1933年に「不易インキ」と「ABCインキ」を発売。不易糊に続く同社の代表ブランドに成長し、社業発展に貢献した。
ところが不易糊はその後、公害や環境対策などの問題を受けて改良を余儀なくされる。「子どもたちに安全・安心な糊を使ってもらいたい」。それだけを思い続けて研究開発に取り組んだ。
実に17年の歳月を費やし、ついに1975年、ホルマリンを含有しない安全・無害の「不易糊」の開発に成功。同時にキャラクターの「フエキくん」が誕生し、「どうぶつのり」シリーズで発売することになった。「フエキくんは安全・安心な糊を届けたいという当社の精神が具現化したシンボルなんです」。
変わらないために変わり続ける
商品名、そして社名の一部に使われる「不易」という言葉をさして同氏は言う。「私は変わらないためには、変わり続ける必要があると考えているんです」。その一つの表れとして、約5年前に化粧品業界への進出を果たした。でんぷん技術を活かして開発した保湿クリームをフエキくんの容器に詰めて販売したところ、大ヒット。これを皮切りに薬用クリームや洗顔料、リップクリームなど次々と展開している。
さらにでんぷん技術を活かして植物由来のプラスチックの開発にも成功。革新的なのはプラスチックに香りをつけたり、消臭効果を持たせられる点で、現在、医療用などの排泄用バッグに施すパウチの共同開発を進めている。
「100年の遺伝子はへこたれない遺伝子」と語る同氏。「当社の遺伝子が自分の体の中に絡みつくように入っている。だから次の100年を考えようと自然に思える自分がいるんです」。自社のコア技術を活かして、変わり続けながら次の100年をめざす。
▲発売当初の「不易墨汁」と「ABCインキ」の容器。
▲キャラクター「フエキくん」を活かしたコスメ商品。
▲3Dプリンタ用に開発した「香るプラスチック」。
不易糊工業株式会社
代表取締役社長
梶田 安彦氏
1895年に発売した「不易糊」を始めとした文具製品、建築用製品、化粧品などを製造販売する。でんぷんのりの製造で培ったコア技術を活かし、化粧品やプラスチックなど新分野への開拓にも力を入れる。