長年築き上げた暖簾と取引先が財産 粟おこしのノウハウをダイエットスイーツへ
新たな分野で勝負をかける
「神林堂」と聞けばオールドファンなら粟おこしを思い浮かべるだろう。だが、近年ではダイエットスイーツメーカーとしての知名度がすっかり定着しつつある。仕掛け人は5代目の岸本氏。先代までは粟おこしひと筋だったが、「これから先、土産ものの商売はあかん」と先を見越し、新規参入へのチャンスをうかがってきた。
すき間を狙って開発したのがダイエット用おからクッキー。事前に競合会社の商品を食べ比べてみると「カロリーを下げることが優先されるあまり美味しくない。この分野なら自分達のノウハウを活かして、味でも勝負できると思った」。砂糖の代わりに還元麦芽糖を使い、バターはブドウの種子から採取されたオイルに変えた。
社長自ら商品開発・試作
だが、粟おこしばかりをつくり続けてきた職人の抵抗にあう。「粟おこししかつくってけえへんかったから、こわいんですね。それならぼくがつくったろやないか」と、工場で一人何度も試作を繰り返した。ようやく形になってきた段階で職人にレシピとつくり方を伝授する。「素人のぼくでもできるんやから、職人さんやったらできるやろと(笑)」。以来すべての商品のアイデア、試作は岸本氏自らが生み出している。
売り方についても新たに大手ショッピングモールを使ったネットでの販売に挑んだ。「当初は簡単に売れると思っていた」が半年間売上ゼロの月が続く。それでも大事にしたのは「初代からずっと守られてきた商いの精神、商売に対して正直であり続ける、ということ」。
なかでも「二重価格」と「ワケあり」の販売戦略は一切禁じた。「当社がネットで卸しているショップでも必ず『大阪名物粟おこしの神林堂』と『創業135年』の文字は必ず入れてもらっています。長い間に築き上げてきたのれんをしっかり守りながら、お客様に迷惑をかけないように徹しています」。
培ってきた信用とネットワーク生かす
徐々にメディアに取り上げられるようになってからは、豆乳どら焼き、大豆ケーキなど品ぞろえを積極的に増やしていく。商品がヒットし自社での生産が追いつかなくなると頼りになるのが、代々つながってきた同業の土産菓子製造業者だ。「困ったときには助け合えるのは古くからの信用があってこそ」と岸本氏。
現在、商品を展開するキーワードは3つ。高齢化やダイエット志向を受けた「お年寄り」「女性」、そして「ペット」だ。「おじいちゃん、おばあちゃんは懐に余裕がある。孫が成長して手がかからなくなると寂しくなってペットがほしくなるでしょう」と、甘いものを制限されているお年寄りに向けたお菓子だけではなく、ペット向けのダイエットフードも製造している。
「祖父からは、仕入先を大事にせえ、と口すっぱく言われました。価格だけで付き合うようなことはしません。そして長い目で冷静に先を見ること。喜ばれる商品をつくっていれば、会社の規模の売上も周りに大きくしていただけるものだと思っています」。老舗ゆえの長い視野にもとづいた誠実な商売観がいつも貫かれている。
(取材・文/山口裕史)
株式会社神林堂
代表取締役
岸本 憲明氏
http://www.rakuten.ne.jp/gold/shinrindo/
事業内容/1880(明治13)年創業。粟おこし及び健康・ダイエット関連菓子の製造・販売。