日本初のプライドと、カレーへの一途な思い
使うスパイスの選定に始まり、粉砕、焙煎、熟成を経て、数10種類を配合する。工程ごとのわずかな差異で無限の組み合わせ。カレー粉づくりは終わりのない作業だ。
「毎回味が違うので、飽きるということがない。力を注ぐ対象がカレーで幸せです」。そう社員が話す幸せな会社が、ハチ食品だ。
1845年に創業した薬種問屋がルーツ。二代目の時代、ウコンなど漢方薬の原料から漂う香りがカレーに似ていると気づき、独自の配合でカレー粉を生み出した。当時、カレー粉はイギリスからの輸入品しか出回っておらず、「魔法の粉」のように思われていた。
1905年、「蜂カレー」と名付けて日本で初めて販売を開始。昭和に入り、テレビCMや新聞広告も大々的に行い、認知度は高まった。
戦後、カレーは代表的な洋食の一つとして人気が定着したことから販売競争が激化。大手企業との安売り合戦に巻き込まれてしまうが、1968年に社名を「ハチ食品」と改めて再出発。カレー粉やスパイスなど品目は変えず、学校給食やレストランに卸す業務用やOEM製品を中心に据えた。
高度経済成長の波にも乗り、1990年には自社製品のレトルトカレー製造を開始。低価格戦略が当たり業績は順調に推移、2000年には自社のレトルト食品専用工場を建設した。販売チャネルに100円ショップやドラッグストアを選び低価格商品から徐々に広げていき、現在は一般スーパーから百貨店まで幅広く販売されている。
社長の土居氏は、「ブランド力を高めたい」と話す。「価格競争に陥らないためにも、ブランドの価値を認知してもらう必要があります」。原点に立ち返り、カレーカンパニーであるというアイデンティティを社内で確認。日本で初めてカレー粉を作り出し、現在もカレー粉から一貫生産することを強みに置いた。
昨年、「蜂カレー」の復刻版を販売。100円中心だったレトルトカレーは500円の高価格帯商品や、有名飲食店など他ブランドとのコラボ品も展開するように。
さらにカレーフレークをいち早く売り出し、海外進出も好調だ。自社でスパイスを調合できる強みを活かし、国によって異なる嗜好や禁忌に合わせて原料を変えて作り分けている。
激辛ブームで使うようになった唐辛子ハバネロのテスト栽培も始めるなど大手メーカーの強固な販売網に多方面から切り込み、「誰もが知るカレーブランドに育てていきたい」と力を入れる。
(取材・文/衛藤 真奈実)