ブランドにあぐらをかかない 挑戦を続ける
プロ向け絵具・画材でトップ
プロ用絵具で国内トップの地位を守り続けるホルベイン。油絵用で164色、水彩画用で108色もの絵具を商品化するために使う顔料はゆうに200種類を超える。例えば、同じ黒色でも「アイボリーブラック」は動物の骨から作った炭、「ランプ ブラック」は油煙、「ピーチブラック」は有機顔料を使う。「塗料メーカーも含めてこれだけ多くの顔料を扱っている会社は当社だけはないでしょうか」と吉村氏。それは画家が必要とする絵具にひたすらこだわり続けてきた歴史の産物以外の何者でもない。
返品の山乗り越え、プロから高い評価
1900年、吉村峯吉氏が創業したときの事業は文具の卸・小売。絵具に携わりだしたのは娘婿の清原定謙氏に代がわりしてからのことだ。「それまでも国内メーカーの絵具を売っていたのですが、自社でもつくりたいと考えたようです」。その思いを具現化すべく復員後の1946年に絵具製造のホルベイン工業を創設した。その5年後には絵具以外の筆やパレット、スケッチブックなどを扱うホルベイン画材も設立した。
絵具づくりには顔料と糊剤が必要だ。水彩絵具に使う糊剤は長年経過しても劣化しないアラビアゴムが使われるが、当時はまだ物資不足の時代。政府から配給で配られた水あめで代用した時期もあったという。その後も、油絵具が時間の経過とともにこんにゃく状に固まってしまうゲル化に悩まされ、返品された絵具を土に埋めるための穴掘り作業に追われたこともあったほどだという。
清原氏は研究開発に没頭する一方で、画家サークルの支援にも注力し、画家の生の声を拾い集めては商品開発に生かした。また、1967年からは全国の各都市別に窓口となる小売店の数を決めて販売する登録店制度をスタートさせる。「乱売を防いでブランドイメージを守るとともに、全国だれでもが買えるようになりました」と吉村氏。試行錯誤を繰り返しながら徐々に高級絵具としての地位を確立していくことになる。
平均にこだわらず、突出した商品も
10年ほど前、東京藝術大学から「理想的な絵具を一緒に研究したい」という話が舞い込んできた。それまでホルベインでは、きれいな色を出す発色性、時間が経過しても割れない堅牢性、中で成分が分離しない安定性をはじめ「すべての人の満足に応えようと商品開発をしてきた」。だが、藝大側から出された要望は二つ。「発色性」と、かすれないようにする「筆の伸び」。産学協同で完成した商品「油一(ゆいち)」は多くの画家から高い支持を得ている。
この経験を筆やパレット、スケッチブックなどの画材商品にも生かしていく。「欲しい人にとっては、なんとしてでも欲しいと思ってもらえる商品を開発していきたい」。築いてきたブランドに胡坐をかくことなく、新たな挑戦が続く。
▲美術雑誌「みづゑ」に掲載された広告。
▲ホルベイン工業創立当時の本社事務所。
▲発色と伸びにこだわった「油一」。