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町工場のイメージを変える、湯本電機株式会社が挑む新規事業と組織の変革の舞台裏

2023.06.01

大阪市東成区に本社・工場を置く湯本電機株式会社は、プラスチックや樹脂の切削加工を専門とする部品メーカー。創業80年以上の歴史があるが、平均年齢は32歳と若い世代が活躍している。

その背景にあるのが新規事業プロジェクト。宇宙産業、メタバース、採用体制、新社屋計画、SNS発信、BtoCのオリジナル商品開発、ベトナム工場新設などプロジェクト数はなんと15を上回る。立ち上げの理由を代表の湯本氏は「社員みんなに当事者意識を持ってもらうため」と話す。「新しい取り組みは普段やっているメイン業務とは違うので、なかなか進んでいかない。そこで目的を明示して社内でメンバーを公募します」。テーマは湯本氏をはじめ経営幹部が発案するが、リーダーもメンバーも立候補制で決まる。誰も手を挙げなければ指名する。「多すぎると参加するだけになってしまうから」と4名前後でチームを組んでいる。部署を横断したプロジェクトチームが社内のあちこちで動いている。

たとえば宇宙産業プロジェクト。同社では既にロケットや衛星の部品を作っているが、その数はほんのわずか。「日本の宇宙産業はこれからもっと発展する。そこに少しでも入り込みたいんです。今のうちに宇宙産業の部品に精通して、“宇宙産業の部品なら湯本電機”と言われる立ち位置に行きたい」。ホームページをつくり、『Stella Mechanics(ステラメカニクス)』という商標をとり、宇宙産業の本場で販路を拡大するためアメリカでの会社設立を視野に入れている。

もうひとつはメタバース。3次元仮想空間の中に町工場をつくり、オーダーメイドでCG製品をつくる計画だ。「プログラミングで製品をつくる過程は、リアルの工場で部品をつくる本業に近い。メタバースでもオーダーメイドでいろいろなものを請け負えるのではないか」と可能性を探っている。メタバースのプロジェクトリーダーは普段営業アシスタントをしている20代の女性社員。「メタバースのことは全然知りませんでしたが、楽しそうだから手を挙げました。会社は挑戦を後押ししてくれるし、勉強しながら能力が上がるのがうれしい」と話す。

課題がないわけではない。メタバースの仕事はチーム外の人から見るとまるで業務時間内にゲームをしているように見えるからだ。「新規プロジェクトは将来の事業に対する種まき。どれもプライオリティの高い仕事です。メンバーには、メイン業務のひとつとして時間を確保してほしいと言っています」と湯本氏。新規プロジェクトに参加したかどうかは昇進条件のひとつになっている。

メタバースで公開された同社の町工場。

同社では新規事業に対する取り組みと並行するように組織が変わっていった。10年前は20名だった社員数が今や子会社を含め約80名。顔ぶれは20代、30代の若い世代。「採用の仕方も変えました。書類選考から二次面接までは30歳前後の社員たちに任せています」。方針は“自分たちが一緒に働きたいと思う人たちを採用する”。「自分たちが選んだのだから言い訳できない(笑)。以前より親身になって育てる意識が出てきたようです」と湯本氏は成果に目を向ける。

湯本氏は同社の3代目。30歳の時に家業を継ぐかたちで入社した。「当時、自分の理想とはほど遠い職場だったので、先代社長(父)とよくぶつかりました」と振り返る。そんな湯本氏がある時、先代に詰め寄った。「いつまで社長を続けるのか明確にしてほしい。その間、私のやることに関与しないのなら会社を継ぐ」と。「クーデターみたいなものですよ(笑)。でも、そう言ったからには実績をつくらなければならない。必ず業績を上げると必死でやって10期連続で増収です」。数ある新規事業プロジェクトは湯本氏の経営の根幹を成している。

工場に見えない同社の新社屋。

この4月、隣の敷地に新社屋が完成した。名称は『シン・マチコウバ計画』。コンセプトは“工場に見えない格好良い工場”。新規事業プロジェクトのひとつであり、手を挙げた社員たちがレイアウトの設計に関わった。「社員にとっては人生の日々の大半を過ごす場所。快適な空間で働いてほしい」と湯本氏。「日本のものづくりはきっちりしたものをつくるのが得意。シン・マチコウバ計画はある意味で昭和の象徴のような町工場を令和の時代に再定義する感覚です」。

代表取締役 湯本 秀逸氏

(取材・文/荒木さと子)

湯本電機株式会社

代表取締役

湯本 秀逸氏

https://www.yumoto.jp/

事業内容/プラスチック加工、樹脂加工