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【其の参】台風被害をきっかけにBCPに着手、演習(訓練)を積むことで社員の理解が深まる

2022.03.23

自然災害や感染症、セキュリティ事故などへのリスクマネジメントの一策として策定する企業が増えているBCP(事業継続計画)。重要なのはわかるけれど、実際どうやって作ったり使ったりするの?とわからないことだらけな方も多いハズ。このコラムではそんなBCPの策定・運用に取り組む大阪の中小企業のエピソードをご紹介します。

【其の参】
台風被害をきっかけにBCPに着手
演習(訓練)を積むことで社員の理解が深まる

稲畑香料株式会社は創業130年の香料メーカー。日用雑貨品のフレグランスや飲食品用のフレーバーを開発製造している。BCPの策定に取り組んだきっかけは、2018年に近畿地方に大きな被害をもたらした台風だった。「1日半の停電で本社工場の基幹システムが止まり、出荷、原材料の受入、製造が大幅にダウンしました」と取締役・製造事業本部長の竹内氏。それだけでなく、強風にあおられ、工場の門扉や原材料を保管するドラム缶の蓋、運搬用のパレットが敷地外にはみ出した。

それ以前にもBCPへの関心はあった。香料は引火性液体であり、工場は消防法で危険物製造所と定められている。法的基準を満たしているとはいえ、突然の災害下では一歩間違うと大惨事を引き起こす。同社は「管理を強化しなければならない」と感じていた。そんな経緯からBCP策定プロジェクトを立ち上げた。

BCP策定のための会議には各部署からメンバーが集まる。

まず取り組んだのは体制づくり。被災直後、迅速に被害の把握と復旧作業にとりかかるための“非常時招集メンバー”を決めた。会社から半径5km、10km圏内に住む社員約20~40名をリストアップし、応急的な対処と被害の調査を依頼することにした。しかし、工場に被害が出るということは、社員の自宅にも被害が出ているということ。「自宅や通勤経路の安全を確認できたら出社」という説明を行う必要があった。

「BCPは説明するだけでは皆なかなか理解できないんです」と総務人事部のマネージャー廣田氏。「災害が起こったらどう動くのか。演習(訓練)をやることで社員にもイメージができていきました」。実際に演習の場を設け、場数を踏むことでBCPの重要性を社員に理解してもらったという。

訓練では工場内に仕掛けられたトラブルを探す。

同社ではどのような演習を行なっているのか。「実際の災害を想定して、起こりそうなトラブルを仕掛けます」と大阪工場製造課の林氏。たとえば、水が出ていない、エレベーターが停止したなど、トラブルが予想される発生個所に貼り付けるのだという。それを緊急時に出社する社員が見つけ、ひとつひとつ対処していく。演習はできるだけリアルに近い状態で行うことに意味があるため、仕掛ける側の条件設定も重要だ。「回数を重ねることで季節によって工場内の明るさや気温が変化し、想定とは相違する環境になることにも気づけました。それを考慮した仕掛けを考えます」と林氏。

被害を見つけて応急対処する訓練も行っている。

「BCPはマニュアルをつくって理解するだけでは役に立ちません」と前出の竹内氏。演習を続けることで浸透し、定着していく。「ただ、本業の時間を割いて取り組むので、最初からすべての部署が協力的というわけではなかったんです」と社内に温度差があったと明かす。そんな同社にこのほど初めてBCP運用の機会が訪れた。新型コロナウイルス感染症である。

同社は新型コロナウイルス感染症が蔓延する前にマニュアルをつくり、ステージに応じたルールを決めた。「BCPに着手していたことが対応を早めました。考え方が社内に浸透していたのでスピーディに対応できました」と竹内氏。出勤時間を2つに分け、マイカー通勤も許可した。工場内でのクラスター発生を避けるために、食堂を開放して製造部員の事務所とした。製造関連部署とそれ以外で昼食時間を分け、業務内容に応じて在宅勤務も推奨している。また、香料を扱う業種から、万一、研究部員に新型コロナウイルス感染症の後遺症と言われる臭覚障害が出れば、他に活躍の場を設けることも検討している。

策定から演習(訓練)、運用まで同社は着実に取り組んでいる。「取引先もBCPを取引の必須条件にするところが増えています。策定をスタートしていてよかったと思っています」と取締役・フレグランス事業本部長の湯川氏。今後の課題は何だろう。「営業と事務系の取り組み強化ですね。製造能力がダウンした時にどの製品を優先するのかは営業の判断によるところが大きいですが、今はまだその優先順位が曖昧です。顧客対応を経営的な視点で考えていかなければならないですね」と語る。

(取材・文/荒木さと子)

 
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稲畑香料株式会社

https://www.inabatakoryo.co.jp/

取締役製造事業本部長 竹内 昌則氏
取締役フレグランス事業本部長 湯川 智之氏
総務人事部マネージャー 廣田 崇宏氏
大阪工場製造課 林 潤一郎氏
総務人事部システムグループ 久保田 育代氏
事業内容/日用雑貨品のフレグランス、飲食品用のフレーバーの開発製造