【其の七】策定しただけでは動けない、BCPは日頃の取り組みが大事
自然災害や感染症、セキュリティ事故などへのリスクマネジメントの一策として策定する企業が増えているBCP(事業継続計画)。重要なのはわかるけれど、実際どうやって作ったり使ったりするの?とわからないことだらけな方も多いハズ。このコラムではそんなBCPの策定・運用に取り組む大阪の中小企業のエピソードをご紹介します。
策定しただけでは動けない、BCPは日頃の取り組みが大事
鏡板とは圧力容器の両端につく丸い形状の蓋の部分。製造に特殊な設備を必要とするため、扱う企業は数少ない。日本鏡板工業株式会社はそんな鏡板メーカーのひとつである。BCPに取り組んだきっかけは2018年9月の台風21号。電源や情報ツールが喪失し、10日近く製造ラインが停止した。「それまでもリスクマネジメントをやっていたが、実体験として捉えていなかった。災害は来るものとして前広に対応していかなければ」と実感。そのための手段としてBCPに取り組んだ。
最初に着手したのは「災害によってどの製品の製造部門がもっとも影響を受けるのか」という事業影響度の分析。同社には関西工場、北陸工場、関東工場という3つの生産拠点があり、同じ製品を異なる工場で製造することでリスクを分散している。しかし、鏡板のなかでも特殊な形状をもつ“特殊スピニング製品”をつくっているのは関西工場のみ。そのためこの製品の供給が災害時にもっとも影響を受けやすいと想定した。
特殊スピニング製品は特殊な機械を使用するため、地震等で設備が止まってしまうと生産がストップする。その際に影響を受ける人と設備を細分化していき、材料の調達や設備のメンテナンスについて検討。復旧にかかる日数や費用を算出した。さらに影響を受けるお客様をリストアップし、どのように理解を求めていくかを考えた。これらの一連の手立てをまとめたのがBCP・事業継続計画書である。また、一般的に社長を対策本部長に据えるケースが多い中、同社ではあらゆる部門をフラットな視点で見られるようにと総務部の長がリーダーになり、社長は高所から全体を見渡す組織づくりを行った。
BCP策定後の2022年8月。北陸地方で線状降水帯が発生。北陸工場で運用の機会が訪れた。当時の様子を振り返り、対策本部のメンバーたちは「策定した通りに進まなかった」と省みる。検証のための事後アンケートからは「工場によって日頃の取り組みに濃淡があり、BCPのルールが十分に周知されていない」という問題点が浮かび上がった。
運用の機会に直面し、同社は「策定しただけでは全く動けない」ことを痛感。今は毎月、各部署のメンバーを集めてBCPファイルの読み合わせを行っている。「初回は質問すら出なかったが、2回目以降にようやく中身について具体的にイメージするようになった」と担当者。同時に、たとえば「気象庁の警戒レベルと都道府県の避難指示のレベルをどう捉えるか」「帰宅制限をかけても子どもの保育園から迎えの要請があった場合にどうするか」など、想定外の事態について細部で改善の必要性を感じている。「災害に直面すると平常心がなくなる。パニックになった時に組織のガバナンスがとれるかどうか。真のリーダーシップが問われる」とBCPの意義、演習、運用方法等を多面的に模索している。
(取材・文/荒木さと子)
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日本鏡板工業株式会社
取締役常務執行役員 総務部長 岩間 雅博氏
執行役員 品質保証室長兼技術部長 越智 浩文氏
安全対策室 室長 藤原 亮氏
総務部長付 相塲 健介氏
事業内容/鏡板の製造販売