《講演録》縮小市場でどう戦う?零細ミシンメーカーが選んだ生きる道【後編】
◉売上げではなく利益重視の企業体質へ
山崎(大):子ども向けミシンの大成功の後、全社改革に着手されましたね。具体的にはどのようなことをされたんですか。
山﨑(一):売上げは捨ててもいいから、と全社的な見直しをしました。目先の売上げのために業務に追われていると、その忙しさから充実感を覚えてしまうものですが、それは自己満足でしかないんです。そうではなく、本当に自分たちが会社としての価値を生み出しているのかを重視しました。お願いして取引先に買ってもらうのではなく、欲しいと言ってもらえる製品をつくろう、と。
例えば、100種類くらいあった商品数を30程度にまで減らしました。また、当社のOEM事業の売上げは、以前は全社売上げの9割を占めていましたが、今では1割です。取引先への依存度を大きく減らして、自立できる体質に変えました。もちろん、当時の取引先の方には、「ご迷惑をおかけすることなく自立していきます」と誠意をもって伝えました。
販路もECサイトを通じた直販体制を確立し、2019年は売上げ4億のうち5,000万円がECによるものでしたし、2020年には売上げ10億円のうち5億円がECによるものでした。
山崎(大):企業としての目標や商売構造が大きく変わったんですね。
山﨑(一):まず、私自身の考え方そのものが大きく変わりました。入社当初のように周りの目を気にするのではなく、せっかくなら面白いことをやろうと。実は事業承継の直前に、小中高時代の友人に会って、私はどんな人間なのかをヒアリングしたんです。ある友人の言った「みんなが何を言おうが、強引にでもひっくり返すのが山﨑だ」という言葉がきっかけとなってくれて、本来の自分を取り戻せたような、吹っ切れたような気がしています。
そして、「粗利益を倍にする」と社員にも自分自身にもわかりやすく明言しました。実際に2015年には22%の粗利益率は、2020年には49%まで上昇しました。環境変化が起きても耐え忍ぶことができるように、爪先でグラグラと立っているのではなく、地に足のついた経営をめざしたんです。
◉自分が面白いと思うものを人にわかりやすく伝える工夫を
山崎(大):最後に、会場にいらっしゃる中小企業経営者のみなさんにメッセージをお願いします。
山﨑(一):私たちのように小さい会社には大企業のようなブランド力はありません。興味をもってくれた人に一言で理解してもらえるようなわかりやすさがないと、せっかくのチャンスを逃がしてしまいます。周りの人の反応を大事にしつつ、自分らしさ・会社らしさを追求していただければと思います。
山崎(大):本日はありがとうございました。本日のお話の中から、みなさんのハートに火をつけるようなもの、事業のヒントになるようなものが見つかることを願っています。
(文/原きみこ)
山﨑 一史氏(株式会社アックスヤマザキ 代表取締役)
2002年、近畿大学商経学部商学科卒業後、機械工具卸企業に入社。2005年に父(当時社長)から相談を受け、右肩下がりの状況を何とかすべく、1946年創業の家業である家庭用ミシンメーカー・株式会社アックスヤマザキに入社。2015年に赤字に陥った状況で3代目として代表取締役に就任。その後、新市場を開拓するため子供向けに開発した「毛糸ミシンHug」がヒット。2016年ホビー産業大賞(経済産業大臣賞)、キッズデザイン賞受賞。第2弾として子育て世代に向けて開発した「子育てにちょうどいいミシン」もヒット。2020年にキッズデザイン賞優秀賞(少子化対策担当大臣賞)、グッドデザイン賞金賞(経済産業大臣賞)、JIDAデザインミュージアムセレクションvol.22と国内デザイン賞3冠受賞。企業として「大阪活力グランプリ2020特別賞」に選出される。2020年度は創業以来過去最高益を達成。
山崎 大祐氏(株式会社マザーハウス 代表取締役副社長)
1980年東京生まれ。慶應義塾大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年3月大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券にエコノミストとして入社。創業前から関わってきた株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、2007年7月に取締役副社長に就任。2019年3月から代表取締役副社長。副社長として、マーケティング・生産両サイドを管理、年間の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。マザーハウスカレッジ代表、朝の情報番組「グッとラック」(TBS系列)の金曜日のコメンテーターも務める。