事業承継

《講演録》縮小市場でどう戦う?零細ミシンメーカーが選んだ生きる道【後編】

2021.11.15

《講演録》2021年6月28日(月) 開催
縮小市場でどう戦う?零細ミシンメーカーが選んだ生きる道

話し手:山﨑 一史氏(株式会社アックスヤマザキ 代表取締役)
聞き手:山崎 大祐氏(株式会社マザーハウス 取締役副社長)

株式会社アックスヤマザキは創業75年目のミシンメーカーであり、山﨑一史氏が2015年に3代目社長として就任した。業績不振下での事業承継でありながらも、自らの知恵と工夫によって、既存取引先への依存度の高いOEM事業主体から脱却し、コロナ禍においてもヒット商品を次々と生み出す製品開発企業へと生まれ変わった。その裏側にあった、商品開発秘話とリアルな経営改革ストーリーについて、株式会社マザーハウス代表取締役副社長の山崎大祐氏が聞き手役となって迫る。

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《講演録》縮小市場でどう戦う?零細ミシンメーカーが選んだ生きる道【前編】

 
【第二部】縮小市場に負けない!
~零細ミシンメーカーが選んだ生きる道~

山崎(大):ここからは、新規事業をどう進めたか、既存事業をどのように改革していったかについて具体的にお伺いしていきます。

 
◉先代社長との考え方のズレ、怒りをかった子ども向けミシン

山崎(大):まずは、アックスヤマザキに入社されて、最初に苦労したことは何ですか?

山﨑(一):当時、経営に関する知識やノウハウがあったわけではありません。何か言われるんじゃないかと過剰に人の目ばかり気にしていたような気がします。無茶をやるにしても、どこまでならやっていいかの判断基準すらありませんでした。生来、私自身は面白いことを言いたい・やりたい、というタイプの人間なんです。それなのに人目を気にして面白いことに踏み切れない自分にものすごくもどかしさを感じていました。

山崎(大):先代社長と経営の話をすることはありましたか。

山﨑(一):経営というよりは営業の話でしたね。父は販路開拓さえすれば売上げは上がるはずだ、売上げが足りないのは営業の言い訳だ、という考えを持っていました。私は販路開拓を進めながらもいつも爪先で立っているような、風が吹いたり、誰かに押されてしまったりすればすぐに倒れるんじゃないか、という不安でいっぱいでした。

ただ、父自身も既存のやり方ではいけないことは自覚していました。でも何をすればよいのか見えていないからこそ、ずっと同じやり方を続けていたのかもしれません。

山崎(大):方向性が見えてきたのが2012年の子ども向けミシンの構想ですね。

山﨑(一):「大逆転戦略」を社内でプレゼンしたんですが、父は「会社をつぶす気か」と激怒して、書類を投げて部屋を出て行ってしまいました。その場にいた全員固まりましたよ。

山崎(大):どのように説得したんですか。

山﨑(一):最後まで父は反対していました。認めてくれたのは本当に最近になってからで、「在庫は大丈夫なのか」と心配してくれることもあります。

山崎(大):簡単には認めたくない、という気持ちもあったのかもしれないですね。

 
◉周囲の意見を取り入れ、表情までもつぶさに観察した

山崎(大):子ども向けミシンの発想のきっかけは何だったんですか。

山﨑(一):このままではいけないと、客観的に当社を見つめなおすためにビジネススクールに入りました。ビジネススクールでのカリキュラムの一環として、ミシン業界の課題や、あるいはもっと広く社会の課題について考える機会があり、その中で生まれたのが「大逆転戦略」です。周囲の人にプレゼンしてみてはフィードバックやアドバイスをもらい、同時にその人の表情やリアクションを見ながら本気度をつかんでいました。

たとえば、友人が「ママ友が家に遊びに来るときうちの奥さんはミシンを隠している、生活感が出るから」という話をしてくれたことがありました。その時の友人の顔は今でも印象に残っています。だったら見せたくなるようなミシンを作ろう、と決心して生まれたのが子育て世代向けミシンなんです。コロナ禍での手作りマスクニーズもあり、大好評をいただきました。

山崎(大):自らをあえて外部環境に置いてみただけでなく、どういう製品なら欲しいと思ってもらえるのか、なんで欲しくないと思うのか、というターゲットユーザーが抱える一次情報を自分の中にストックされていったんですね。ほとんどの人は、縮小市場だという二次情報だけをみて思考停止に陥りがちなものです。

山﨑(一):それこそ、ビジネススクールでのプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント分析では「負け犬」だから撤退、で終わってしまう業界でしたからね。コンセプトを明確にして、ターゲットを絞って商品名もわかりやすくして、伝えることをとにかく意識しました。子供向けミシンは「簡単・安全」、子育て世代向けミシンの場合には、「難しい・面倒くさい・邪魔の正反対」をめざし、雑誌「VERY」に掲載されるレベルのものを作ろうというコンセプトを打ち立てました。

 
◉自ら販路開拓、プレスリリースも自分で書いた

山崎(大):まさに引き算の美学ですね。子ども向けミシンの販路はどのように開拓されたんですか。

山﨑(一):自分で開拓しました。ミシンメーカーが玩具を出すなんて誰も思っていなかったですからね。玩具業界の常識や商売のノウハウなんて全くわかりませんでした。知り合いのツテでトイザらスさんを紹介してもらって商談にこぎつけ、仮受注を獲得したんです。それを武器に業界1位の玩具問屋さんに売り込みました。

プレスリリースも自分で書きました。プレスリリースの書き方の本を買いあさって、とにかく原稿を書いてみて、それを読み直した時に自分がワクワクできるかどうかを重視しました。そうやって書いたリリースの内容がメディアに取り上げられ、さらにそれが別のメディアのトップ記事に出たり、取材を受けたりするきっかけとなりました。

山崎(大):普通ならPR会社に外注しちゃうところですね。まず自分でやってみるという姿勢はとても共感できます。専門外であってもポイントを自分で把握しておくことは重要ですね。

山﨑(一):何もわからない状態のまま外注すると、主導権が自分から離れていってしまいます。今では外部のプロと協力してPRなどは行っていますが、判断軸は常に自分でもっておきたいと考えています。

 
◉売上げではなく利益重視の企業体質へ

山崎(大):子ども向けミシンの大成功の後、全社改革に着手されましたね。具体的にはどのようなことをされたんですか。

山﨑(一):売上げは捨ててもいいから、と全社的な見直しをしました。目先の売上げのために業務に追われていると、その忙しさから充実感を覚えてしまうものですが、それは自己満足でしかないんです。そうではなく、本当に自分たちが会社としての価値を生み出しているのかを重視しました。お願いして取引先に買ってもらうのではなく、欲しいと言ってもらえる製品をつくろう、と。

例えば、100種類くらいあった商品数を30程度にまで減らしました。また、当社のOEM事業の売上げは、以前は全社売上げの9割を占めていましたが、今では1割です。取引先への依存度を大きく減らして、自立できる体質に変えました。もちろん、当時の取引先の方には、「ご迷惑をおかけすることなく自立していきます」と誠意をもって伝えました。

販路もECサイトを通じた直販体制を確立し、2019年は売上げ4億のうち5,000万円がECによるものでしたし、2020年には売上げ10億円のうち5億円がECによるものでした。

山崎(大):企業としての目標や商売構造が大きく変わったんですね。

山﨑(一):まず、私自身の考え方そのものが大きく変わりました。入社当初のように周りの目を気にするのではなく、せっかくなら面白いことをやろうと。実は事業承継の直前に、小中高時代の友人に会って、私はどんな人間なのかをヒアリングしたんです。ある友人の言った「みんなが何を言おうが、強引にでもひっくり返すのが山﨑だ」という言葉がきっかけとなってくれて、本来の自分を取り戻せたような、吹っ切れたような気がしています。

そして、「粗利益を倍にする」と社員にも自分自身にもわかりやすく明言しました。実際に2015年には22%の粗利益率は、2020年には49%まで上昇しました。環境変化が起きても耐え忍ぶことができるように、爪先でグラグラと立っているのではなく、地に足のついた経営をめざしたんです。

 
◉自分が面白いと思うものを人にわかりやすく伝える工夫を

山崎(大):最後に、会場にいらっしゃる中小企業経営者のみなさんにメッセージをお願いします。

山﨑(一):私たちのように小さい会社には大企業のようなブランド力はありません。興味をもってくれた人に一言で理解してもらえるようなわかりやすさがないと、せっかくのチャンスを逃がしてしまいます。周りの人の反応を大事にしつつ、自分らしさ・会社らしさを追求していただければと思います。

山崎(大):本日はありがとうございました。本日のお話の中から、みなさんのハートに火をつけるようなもの、事業のヒントになるようなものが見つかることを願っています。

 
(文/原きみこ)

 

山﨑 一史氏(株式会社アックスヤマザキ 代表取締役)
2002年、近畿大学商経学部商学科卒業後、機械工具卸企業に入社。2005年に父(当時社長)から相談を受け、右肩下がりの状況を何とかすべく、1946年創業の家業である家庭用ミシンメーカー・株式会社アックスヤマザキに入社。2015年に赤字に陥った状況で3代目として代表取締役に就任。その後、新市場を開拓するため子供向けに開発した「毛糸ミシンHug」がヒット。2016年ホビー産業大賞(経済産業大臣賞)、キッズデザイン賞受賞。第2弾として子育て世代に向けて開発した「子育てにちょうどいいミシン」もヒット。2020年にキッズデザイン賞優秀賞(少子化対策担当大臣賞)、グッドデザイン賞金賞(経済産業大臣賞)、JIDAデザインミュージアムセレクションvol.22と国内デザイン賞3冠受賞。企業として「大阪活力グランプリ2020特別賞」に選出される。2020年度は創業以来過去最高益を達成。

 

山崎 大祐氏(株式会社マザーハウス 代表取締役副社長)
1980年東京生まれ。慶應義塾大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年3月大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券にエコノミストとして入社。創業前から関わってきた株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、2007年7月に取締役副社長に就任。2019年3月から代表取締役副社長。副社長として、マーケティング・生産両サイドを管理、年間の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。マザーハウスカレッジ代表、朝の情報番組「グッとラック」(TBS系列)の金曜日のコメンテーターも務める。

株式会社アックスヤマザキ

代表取締役

山﨑 一史氏

https://www.axeyamazaki.co.jp/

事業内容/縫製機械等の製造販売