《講演録》大阪発のバッグメーカー「マスターピース」のブランドを支えるものづくりの現場&人材の強みとは?
◉自社工場から生まれる新たなアイディア
古家:無理に自社工場という点にこだわっているわけではなく、高いクオリティーを目指したとき、必然的に自社工場という選択肢を選んだというのが実際のところです。
直営店も、クオリティーの高さを直接に伝えられる場所、という観点から必要であり、結果的に自社工場と直営店によってよりスムーズにブランドの成長を遂げることができたと考えています。
私共のような会社でこの規模の自社工場を持つことはかなり珍しいのではないかと思うのですが、ブランドのクオリティーを維持するのに企画・生産・販売の一貫性は必要不可欠です。台湾にも直営店をオープンさせましたが、海外でも「メイドインジャパン」は非常に大きな訴求力を持っています。その一方で、単に日本製という点を推し続けるのではなく、台湾でもマスターピース・クオリティーを生み出すことができないか、ECサイトの拡充と合わせて検討をしているところです。
桂:ファクトリーでは、各セクションとも新人や若手社員の割合がすごく高くなっています。これは、次世代の職人を育成するプログラムを同時に行なっているからです。バッグ製造におけるさまざまな仕事を、熟年の職人さんと若手の職人で意見を交換しながら行っています。
マスターピースは、異素材の組み合わせなど、常識にとらわれないアイデアから多くの革新的なバッグを生み出してきました。それらは職人たちが年齢にかかわらず、あるいはセクションにとらわれずコミュニケーションすることで、非常にフレキシブルな感覚を持ち合わせていることが背景にあるように思います。そうしたことをさらに展開するため、今年からはデザイナー、ショップスタッフ、若手の職人を中心とするプロジェクト「master-piece reyouth」をスタートさせました。
◉地域との共存とグローバルな展開
古家:私はファクトリーそのものをブランディングすることで、骨組みとしてのブランドの「骨」を太くしていけると考えています。
プライドを持って働く職人たちの様子や、生産の現場を直接お客様にも見ていただくなど、ファクトリーの魅力が伝わるさまざまな活動を通じて、工場で働くことが「かっこいい」という印象を次世代にも芽生えさせていきたいのです。
マスターピースは大阪で誕生し、大阪で成長してきたブランドです。この地で雇用も生む中で、大阪という場所に関わるさまざまな人が集まってきて、マスターピースというフィルターを通して成長してきたという点は、私自身とてもおもしろいことだと思いますし、まさにその点がこのブランドの強みだと感じます。
現在のマスターピースの核であり、共に成長してきた人間が、ブランドの血となり骨となって支えている。そのようにして私たちが熟成させてきたものを、さらにグローバルに伝えていくということが、大阪の産業の発展にもつながっていくと考えています。
(文/安藤智郎)
古家 幸樹氏(master-piece brand director)
1987年(昭和62年)奈良県出身。関西大学卒。東京の映画会社を経て、2013年にMSPC株式会社へ。2017年、自身がディレクターを務めるバッグブランド「nunc」を立ち上げる。以後、「mizuno×master-piece」コラボレーションなどを筆頭に、さまざまなプロジェクトを成功させ、2020年1月より現職。https://master-piece.co.jp/
桂 満久氏(BASE OSAKA sample lab. manager)
1986年(昭和61年)三重県出身。2008年、モード学園(ファッション雑貨専攻)卒業後、MSPC株式会社入社。2008年の「BASE OSAKA」設立と同時期に配属。4年間の縫製現場担当を経て、sample LAB.に移動。2020年、新BASE設立と同時にsample LAB. Managerに就任。