会社の文化を再定義し、たどり着いた理念経営を実践
ジャイアントパンダやイルカなど140種1,400頭の動物が暮らす、アドベンチャーワールドを運営するアワーズ3代目の山本氏は入社当初、「勝ちたい、認められたい、という思いにとらわれていた」という。
数字に強く頭の切れる父に対し、どうしたら自分は存在感を示せるのか。
大学卒業後に何の武器もなく入社した山本氏にとって気負わずにいる方が無理だった。
経営者を養成する研修・セミナーにひたすら通い、学んだことを実践するも空回りするばかり。
「お客様は神様。そう思い込んで、来場につながるような仕掛けを発案しては社員に無理難題を押し付けていた。私と過ごした日々を悪夢のような日々だったと表現する社員もいました」と苦笑する。
38歳の時、理念経営の考え方に出合い、共感した。
そこで「あなた自身、何を目的に経営していますか」と問われ、「家族、従業員が幸せだと自分も幸せに思える」ことに気づいた。
そこから社員の有志とプロジェクトチームを作り、会社がそれまで「人を大切にする。人の可能性を見出す」文化を大切にしてきたことをふまえ「こころでときを創るSmileカンパニー」の理念の再定義と再構築を行った。
そして、社員、ゲスト、社会の順番にSmile(=幸せ)を創り出していくことを理念とした。
「もともとその思いが根底にあったのに、背伸びばかりしていた。個人の理念、そして経営の軸となる企業理念ができたことで自分自身が楽になれた」と振り返る。
社長に就任して真っ先に取り組んだのが、アドベンチャーワールドの敷地内に新社屋を建てることだった。
「社屋に金をかける会社はつぶれる」と諭されたこともあったが思いを曲げず、当初計画の倍の額をかけて、社員が成長し、未来を創るための環境を整備した。
その後も父とはぶつかることもあったが「それは心配の裏返し。最後は私の決断を尊重してくれている」と感謝するとともに責任を感じている。
昨年来のコロナ禍で事業に強い逆風が吹いている。
だが、YouTubeでの発信、クラウドファンディング、地域との協働イベントなど社員からの発案でさまざまなプロジェクトが自然発生的に立ち上がった。
「理念経営に取り組んできたことが間違っていなかったことを確認できた1年だった」と言葉をかみしめる山本氏。
「これからはアワーズという企業を舞台に、社員一人ひとりが自分で仕事をつくり、自分でその仕事を評価でき、自己実現できるような『しくみ』を創ることが目標」だという。
社員の心からのSmileをめざす取り組みはこれからも続いていく。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)