産創館トピックス/講演録

《講演録》マザーハウスのトップが語る「小さな思いから新しい道を創造する情熱と思考」~第二部

2020.02.17

山崎:「社会起業家という表現はやめてほしい」とメディアに言っていた時期もありましたね。

山口:最初のお店ではポリシーを貼ったり、現地の職人の写真を飾ったりして社会的な意義を伝えようとしていたんです。

でもお客様にとっては買物という楽しい時間と生活の役に立つバッグを見つけることが最優先。私たちのメッセージはお客様が商品を買ってくださった後に伝わればいいと思うようになりました。

 
山崎:社内でも社会起業家という言葉は使わない。そこにこだわっていますよね。

山口:マザーハウスのお客様の7割は通りすがりのお客様で、私たちの哲学を知らない方たちです。

大事なのは商品とお客様へのサービス。本当の途上国の可能性は、お客様の生活に付加価値のあるものを提供できた時に開花すると思っています。

だから社会起業家のストーリーは一旦封印して、バッグ屋、ジュエリー屋としてやってきました。

山崎:山口さんは経営者であると同時にデザイナーでもありますよね。

山口:最初、デザインのことはよくわからなかったんです。でも途上国で何かをつくりたいと考えた時にデザインはとても重要だと思いました。

日本でさまざまなデザイナーさんに絵を描いてもらうのですが、現地ではその絵とは違うものが出来上がるんです。なぜなら現地には日本のように豊富な素材や金具などがないから。

その時にデザイナーは現場にいなければいけない、現場にいるのは私しかいないと思って、見よう見まねでやったみた。起業してからバッグの学校に通ったんです。

 
山崎:理念に執着し、方法論に執着しない。マザーハウスの変わらなかったところは理念だけ。他はずいぶん変わりました。

山口:理念に執着しながら、さまざまなトライをしなければ一国のビジネスは成り立たない。いろいろな手を使わなければいけないくらい、私たちの哲学はマニアックというか強すぎるんです。

こだわるところはこだわり、緩めるところは緩めないと立ち上がっていかないと思うんですよね。

 
(文/荒木さと子)

 

山口 絵理子氏(株式会社マザーハウス 代表取締役兼チーフデザイナー)
1981年埼玉生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。ワシントン国際機関でのインターンを経てバングラデシュBRAC大学院開発学部修士課程に留学。現地での2年間の滞在中、日本大手商社のダッカ事務所に研修生として勤めながら夜間の大学院に通う。2年後帰国し「途上国から世界に通用するブランドをつくる」をミッションとして株式会社マザーハウスを設立。現在バングラデシュ、ネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマーの自社工場・提携工房でジュート(麻)やレザーのバッグ、ストール、ジュエリー、アパレルのデザイン・生産を行う。日本国内29店舗、台湾6店舗、香港2店舗、シンガポール1店舗で販売を展開(2019年9月時点)。Young Global Leader (YGL)2008選出。ハーバードビジネススクールクラブ・オブ・ジャパン アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2012受賞。毎日放送「情熱大陸」などに出演。

 

山崎 大祐氏(株式会社マザーハウス 代表取締役副社長)
1980年東京生まれ。慶應義塾大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年3月大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券にエコノミストとして入社。創業前から関わってきた株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、2007年7月に取締役副社長に就任。2019年3月から代表取締役副社長。副社長として、マーケティング・生産両サイドを管理、年間の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。マザーハウスカレッジ代表、朝の情報番組「グッとラック」(TBS系列)の金曜日のコメンテーターも務める。

株式会社マザーハウス

代表取締役兼チーフデザイナー 山口 絵理子氏
取締役副社長 山崎 大祐氏

https://www.mother-house.jp

事業内容/発展途上国におけるアパレル製品及び雑貨の企画・生産・品質指導、同商品の先進国における販売