ラジオで挑戦、社内の声を届ける起業物語
株式会社オフィスエンニチは、社内ラジオを活用して、会社に対する社員のエンゲージメント向上をめざすサービスを提供している。代表の高間氏はラジオ番組内容の企画、進行(DJ)、編集までを一人三役でこなす。収録時は、機材を持って会社に出向き、社員と共にパーソナリティ役となって、企画のテーマに沿ったゲストの社員を交えて話をする。収録内容は20分の番組に編集して社内のサーバーにアップし、社員はいつでも好きな時に聴くことができる。トークテーマは、会社の歴史や職場紹介、社員からのお悩み相談などさまざま。現在10社ほどの顧客を抱え、収録回数が30回を超える会社もある。
高間氏はかつて勤めていた会社で人事を担当し、社内コミュニケーションの活性化を目的に経営層と社員による座談会などを企画していた。ファシリテーターとしてのスキルを磨くため、コーチングやキャリアコンサルタントの資格も取得した。その一方で、在職中の2020年には、かねてから憧れていたDJ活動を趣味としてスタートさせた。インターネットラジオ局の枠を購入しての配信と、ポッドキャスト番組の配信を、毎日2本立てで続けていたという。自ら制作した音楽をBGMに流しながら、毎回ゲストを呼んでラジオ番組として発信。その活動を見た知人から「それを仕事にしたらいいやん」と提案され、大きな転機を迎える。41歳のとき、会社を「クビ」になった高間氏は、この言葉に背中を押される形で、本格的に社内ラジオの事業化に向けて動き出した。

代表取締役 高間 俊輔氏
当初は知り合いの社長に声をかけ実施するところから始め、取り組みがメディアに取り上げられるようになると、「ぜひうちの会社でも」と声がかかるようになった。「社内ラジオと聞くと皆さんすごく興味を持たれるんです」。しかも全国を見渡しても同様のサービスを手がける会社はほぼなく、いわばブルーオーシャン。無限の可能性に期待は膨らむ一方、「それは裏を返せばまだマーケットがないということ。だから市場をつくっていかないといけないんです」。
そこで、コミュニティづくりを目的に「一般社団法人社内ラジオ推進協会」を設立。DJ(ラジオ番組作り)をやってみたい人、社内ラジオに興味を持っている会社、すでに社内ラジオに取り組んでいる会社、の3者を集め、毎月定例会と交流会を開催している。「社内コミュニケーションを円滑にするための発信媒体がラジオです。一方で、コンテンツを創るのはパワーが必要です。自社だけで制作するのではなく、さまざまな分野の専門知識を持つ人が集まって、GoogleのnotebookLMやGeminiを使用して知識を集積・活用する仕組みがあれば、ラジオ局を凌駕する発信をすることができます。今まで、当社が一社で行っていた事が一気に広がり、「ラジオ」の概念を変える事ができるのではないか、と思っています」。

社内の空気がやわらぐラジオ収録のひととき。自然な会話が働く場所にあたたかさを生む。
番組制作を続ける中で葛藤を感じることもあるという。「番組をつくる以上、それを聴いた社員の人たちにとって“情報が得られた”、“役に立った”という機能を提供しようと考えがちです。でもラジオを聴く人って、それよりもホッとできる、息抜きできるといったことをラジオに求めているんです。その延長線上にパーソナリティとリスナー、さらにはリスナー同士の一体感が生まれ、やがて社内にコミュニティが育まれていくのが理想なんですよね」。オフィスエンニチにとってもクライアントにとっても「社内の風通しを良くして、よりコミュニケーションを円滑にしたい」という目的は一致している。「ただそのためにどのようなやり方がよいのか、まだまだ試行錯誤中」。迷いながら、探りながら、ラジオならではの良さを活かす方法を考えている。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)