セルロースが常識を変える、「食品でつくる」から始まる未踏分野への挑戦
これから伸びる市場は?どんな技術や発想が注目されている?「次世代ビジネス発掘ラボ」では、そんな“これからの可能性”を探るべく、ユニークな取り組みに挑む企業や人にフォーカス。まだ知られていない、でもおもしろい!を発見する連載です。

【Case.2】株式会社デリコジャパン
代表取締役 前田 正雄氏
子どもの頃、「できることならシャボン玉を触ってみたい」と思った人は多いのではないでしょうか。そんな夢をカタチにしたのが株式会社デリコジャパンです。
同社は食物繊維(セルロース)を使って、『触れるシャボン玉』を開発しました。このシャボン玉は手で触れても割れにくいのが特長で、膜が割れる時には「パチン」と音がします。遊び心をくすぐるおもちゃとして、じわじわと注目を集め始めています。また同社は「口に入っても、身体に付着しても安全」という特長をPRしながら、犬や猫などのペットオーナーに向けた製品として展開させたいと考えています。
そして、シャボン玉に続く次なる製品が『延焼抑制剤』。セルロースの「熱を加えると固まり、熱伝導性を抑える」という特長を活かし、火災事の燃え移りを抑制する材料を開発しました。近年、国内外で大規模な森林火災が発生しており、代表の前田氏は「これを火元の1~2km先に撒いていただければ、その先の延焼を防ぐことができます」と話します。「しかも食物繊維なので、木に付着しても、動物の体内に入っても、液化して海に流れ出ても問題ありません」と安全性についても強調しています。
同社は上記の2製品を大阪・関西万博の「大阪ヘルスケアパビリオン」に出展する予定で、「まだ世の中にない、“食品でつくった食品ではない製品”として、たくさんの方に見ていただきたいですね」。シャボン玉は商社や百貨店などの流通業界に、延焼抑制剤は国内外の行政機関などに関心を持ってもらえたらと期待しています。
もともと同社は、菓子や菓子の原材料などを製造販売する企業ですが、なぜ食品以外の製品開発に乗り出したのでしょうか。前田氏は「食品でないものを食品でつくってみたらおもしろいんとちゃうかなと、ずっと思っていたんです」と動機を語ります。
「そう思っていると不思議なもので、そういう話を持っている方と出会うんですよ」。『触れるシャボン玉』も、ある研究者との出会いがきっかけでした。「その人は触れるシャボン玉について40年以上考えてきた方で、『大切なことは夢や妄想が実現するという執念を持ち続けること』だと語っていたそうです。
「世の中にないものを具現化するのは確かに難しいかもしれませんが、私も『絶対できる』と思って開発しています」と前田氏。万博ではその信念が商品化に向けた新たな出会いを引き寄せるに違いありません。同社は今後もセルロースを使った洗剤やハンドクリームなど、さまざまな製品の開発を検討しています。
(取材・文/荒木さと子)
<Bplatz編集部 取材メモ>
「食品でないものを、食品でつくる」という発想に、研究者的な遊び心とビジネスとしての可能性を感じました。「セルロース」という身近な素材が、触れるシャボン玉や延焼抑制剤といった全く異なる用途に展開されていく様子は、まさに応用の妙。既存の枠にとらわれない視点が、新しい市場や社会課題の解決にどうつながっていくのか――今後の取り組みにも注目していきたいと思います!