《講演録》マザーハウスのトップが語る「小さな思いから新しい道を創造する情熱と思考」~第一部
♦大量生産と手仕事の掛け算から生み出したもの
バングラデシュの人々がいちばん求めているものは何だろう。その頃、そんなことをずっと日記に書いていました。
衝撃的だったのは仕事がないことです。大学院にはコンピューターが10台しかないのですが、皆、それを使って仕事を探しているのです。
お金を使ってせっかく大学院まで来たのに職がない。学校はあっても知識を活かす産業がない。
私はそこで途上国では学校をつくることより、働く場所をつくるほうが先決ではないかと思い始めたのです。
バングラデシュはファストファッションの製造拠点として有名です。
当時、私が現地の工場を回って感じたのは大量生産型モデルへの違和感と、その対極にある手仕事などの生産者支援への違和感でした。
大量生産と手仕事。二項対立するどちらかに属する働き方ではない働き方はないのか。マザーハウスが生まれた根幹はそこにあります。
現地の素材である麻のジュートを使って、160個のバッグをつくったのがマザーハウスの始まりです。
ビジネスとして成功するかどうか私にはわかりませんでした。あったのは、そこに働く女性たちのポテンシャルと何ができるのだろうという思いだけ。
当初は現地の提携工場に頼み込んで生産していましたが、その後、自社工場を立ち上げ、今では250人のスタッフが月産1万個のバッグをつくって輸出しています。現地の工場としては4番目くらいの規模です。
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株式会社マザーハウス
代表取締役兼チーフデザイナー
山口 絵理子氏
事業内容/発展途上国におけるアパレル製品及び雑貨の企画・生産・品質指導、同商品の先進国における販売