《講演録》社運を賭けた単品勝負戦略!〜八天堂のくりーむパンを愛され続ける商品にするまで〜【前編】
♦どん底での交通事故~冷静な判断ができず、精神的にも追い詰められていた~
うまくいかないことを周りのせいにして、自分の夢だけを追っている人間なんて誰も応援してくれません。夢をもつのは素晴らしいことですが、夢には使命感が伴わないからブレが出ます。夢と志は全くの別物です。当時の私は目の前で起きる色々なことに振りまわされて、冷静に状況を判断することができなくなっていました。
とにかく店の営業を続けようと、社員の抜けた穴を補うべく、私は広島中の店舗を車で飛び回っていました。とうとうある日、対物で済んだものの交通事故を起こしてしまい、そのせいで今でも首の調子がよくありません。首が痛むたびに当時のことを思い出します。
店を開けないといけないという強迫観念で夜も眠れず、精神的にもギリギリの状態で「ここの社長は皆に迷惑かけている悪者だ」という幻聴すら聞こえるようになり、妻にも大変心配されました。当時の私を知る人は、「あの時によく死ななかったね」と言います。それほどにまで追い詰められていました。
♦どん底での心の痛み~社員につらい思いをさせてしまっていた~
昨日より今日、今日より明日と業績が悪化していく中、私だけではなく社員にも大変な負担をかけてしまっていたんです。ある店舗の店長から、新入社員のひとりと急に連絡つかなくなったと報告がありました。その店舗の労務環境は、朝早いし夜は遅い、休憩は粉袋の上で焼き損じたパンを頬張り、週1日の休みさえも取れないという状況に陥っていました。
慌ててその社員の実家へ駆けつけると、親御さんから「うちの娘は子どもの頃からパン屋になることが夢で、入社が決まったときには家族みんなで喜びました。なのに、実際に入社したらとんでもない労働環境で働かされて。そのせいでうちの娘は家の外に一歩も出られなくなってしまった」と叱責され、私は頭をあげることができませんでした。
私にも娘がおります。自分が親の立場だったらもっと早い段階でそんな会社は辞めさせていたでしょう。本当に心が痛んで、もう一度チャンスがあるのなら社員のために生きる経営者になろうと決心しました。冒頭で紹介した八天堂の今の経営理念はこのときに湧き上がってきたものです。
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