《講演録》心づくしの採用が起こした奇跡〜ほぼ素人・味方なしから始まった人事・採用改革記【後編】
▶採用活動とは、人を育てること
会社によってカラーは異なると思いますが、一体感を作る上で、トップの主体的関与とリーダーシップは重要です。周囲は上手に引き出せるように、コミュニケーションを取ること。我が社のめざす姿は「思いやりあふれる集団」であると、社長から朝礼や入社式でいつも発信してもらっています。
採用活動が一番の人材教育につながります。当初は、採用だけが自分の仕事だと思い、育成は現場に任せていました。また、必要な技術を教えさえすれば育つはずだと、いろいろな研修もしました。だけど、結局、入口が大事なのです。
学歴ではなく、本当に会社が大切にしたいことを見極めて、そこに適した人を採用する。人を育てるということを本気で考えるのが「採用」の仕事だったのです。
▶離職は新しい人生の門出。自己実現を軸に、一人ひとりの成長を応援する
大卒採用に本腰を入れ始めた当初、離職率が高かったのは、社員のなりたい姿を聞いていなかったことも理由の一つではないか。そう考えて、今は新卒・中途を問わず、めざす将来像を必ず聞いています。
本人の夢が叶い、私たちも強い企業になれるように、配属先や異動のタイミング、学習支援などの計画を立てます。自己実現を軸に置いて成長を応援しています。
「やりたいことをやれ」と言っても、ここでは限界があるからです。せっかく育った優秀な社員が辞めるのは残念ですが、新しい人生の門出として温かく送り出せば、その後も関係は続いていきます。
実際に、出産・育児で離れた女性社員は、その後、登録制にして戻ってきてくれることもあります。一から合う方を探すよりスムーズです。
また、中途採用も増えてきましたが、丁寧に研修をして、小川珈琲が大切にしていることを継承しています。
見た目の違いはもちろん、価値観など見えない違いもありますので、まずは受け入れ側である我々が勉強し、多様な価値観があることを知るダイバーシティ研修も実施しています。
IT技術の進化や少子化など、苦しい時代だからこそ、本質を考え、採用活動の原点に立ち返ることが大切だと考えます。
企業や学生は、会社の知名度や安定感、給料、福利厚生などを仕事の内容より重視する「就社」ではなく、仕事の内容や社風をきちんと理解した「就職」を。
キャリアセンターは、内定者数ではなく、一人ひとりに合う会社の提案を。保護者の方は、本当にその子がのびのび働ける場所かどうか考えたアドバイスを。
私自身は、採用・人事の現場を離れましたが、それぞれの立場でもう一度、採用について考えられたらと思います。
(文/衛藤真奈実)
原田 英美子氏(小川珈琲株式会社 社長室室長)
大学を卒業後、建設会社での社長秘書勤務を経て1990年に小川珈琲に入社。管理部課長、人事部長を歴任後、2017年から現職。認知度が低い企業への就職希望者が少なく、まだ採用経験の浅い時代に新卒採用の担当を任されるも、社内の風土改革・採用活動の全国行脚・オリジナルの研修プログラム開発などを推し進め、20年間連続で内定辞退ゼロという同社人事の礎を作り上げた。最近では、「採用のノウハウ」「おもてなしのあり方」などをテーマとした講演を各地で行っており、現場を理解した歯切れのよい話は、持ち前の明るさと相まって好評を博している。