ザ・大阪の揚げせんべい、関西以外の市場で攻勢
「Bonchi ah get!」
ファンキーなリズムに乗せて、昨年誕生したばかりのキャラクター「ぼんちネコ」がジョン・トラボルタばりに指を突き上げてシャウトする姿は、かりっと香ばしく、優しいその口当たりからは想像がつき難い。
関西の揚げせんべい界では絶大な存在感を誇るぼんち揚だが、それ以外のエリアでは地域のライバルに水をあけられている。
昨年はアウェイの東京でファンミーティングを開催。そして今年は幅広い世代に認知を図るべくダンス動画コンテストを企画した。「ぼんち揚を全国区のお菓子にしたい」という強い思いの表れだ。
1960年に誕生したぼんち揚だが、会社はもともとあられ製造会社として東京で創業。戦後揚げせんべいの製造を始め、まだ揚げせんべいが普及していない大阪の市場を狙って販売した。
原料の米が乏しい時代。山形の生産農家に頭を下げて仕入れルートを確保した。
ただ当初は「揚げた油の酸化による味の劣化に悩まされ、返品が相次いだそうです」と六十田氏。せんべい業界でいち早くアルミ包装を導入したのもそうした苦労の表れだ。
飽きのこない味を生み出すポイントはたれの味だけではない。生地は油で揚げる前に乾燥する。「内も外も均一に乾燥させないと揚げた時に穴やムラができてしまう」だけに大事な工程だ。
そして揚げた後に冷ましてからたれに浸け込んで、その後遠心分離機で振り切る。「冷まし具合も肝心。温度が高いとしゅみすぎるんです」。さらに振り切り具合で味の濃淡も変わる。
揚げせんべいの世界は奥深く、地域ごとに特徴のある醤油、みりん、だし文化に根差した揚げせんべいが定着している。ぼんち揚に使われるたれは、関西風の淡口(うすくち)しょうゆにかつおだし、昆布だしなどが配合されている。
おととし6パックの小分け包装にし、形も小さくしたところ、じわじわと首都圏でも支持を広げつつあるという。
合言葉は「揚げせんべいでナンバーワン」。これまでに形状や味付けでバリエーションを加え、今年はのり塩味で勝負をかける。
「ぼんち揚の味については、だしの調合を変えたりして常に新しい味を研究しているのですが、やはり創業の味を超えるのは難しい」と六十田氏。
来年で“還暦”を迎えるロングセラー。温故知新の探求は続く。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)