祖父の思い胸に、国産黒文字ようじを復活
樹皮が黒く硬い木質の国内産クロモジを使ったつまようじ「黒文字ようじ」づくりがおよそ30年ぶりに復活した。
茶席などで和菓子を切り分け、口に運ぶのに使われる楊枝と聞けばピンと来る人も多いだろう。MADE IN JAPANの仕掛け人は末延氏。「おじいちゃんの思い出が詰まったつまようじだったから」と思いを語る。
同社が本社を置く河内長野市では明治期から黒文字ようじづくりが始まり、大正期からは一般的なつまようじであるシラカバ製のつまようじもつくるようになった。ピーク時には大きな会社から小さな個人事業主に至るまで50社のメーカーがひしめく一大産地だったという。
末延氏が子どもの頃、祖父の作業場を訪ねると、山と積まれたクロモジの木の香りで満たされていた。業界が安価な中国産へとなだれを打つなか、「最高級の一膳物だけは最後まで頑として国産を貫き、機械や他人に任せず手作業でお箸を黙々とつくっていた祖父の姿が今も目に焼きついている」。
祖父が亡くなった後、国内産クロモジを使った黒文字づくりの歴史は途切れた。
WEBデザイナーとして働いていた末延氏が国のものづくり補助金制度の存在を知ったのは5年前のこと。
おじに黒文字ようじを製造する専用機の開発を持ち掛けた。申請書づくりからかかわるうち、跡継ぎ不在を理由に「あと5、6年で会社を畳む」とおじが話すのを聞き、「それなら私が」と入社を決めた。
機械の開発と合わせ、クロモジが自生している山を全国に探し歩き、所有者と直接交渉して材料の入手ルートを確立した。
その後1年がかりで、「純国産」の文字を入れ、着物をモチーフにしたパッケージに包んで商品化。現在は百貨店の催事などで期間限定で出品しているほか、高級キッチン用品店などでも販売されている。
ただ「見た目は中国産と変わらず、差別化が難しい」など課題は多い。
「まずクロモジを知ってもらうため」と、クロモジの廃材から香り成分を抽出しアロマスプレーを開発。
また、末延氏は年に1回地元の小学校でつまようじをテーマにした授業に出向く。そして最後には決まって「大きくなったらつまようじづくり一緒にやろな」と呼びかける。
「そのころにはもっと魅力的な会社にしておかないと」。純国産の黒文字ようじを広める挑戦は始まったばかりだ。
(取材・文/山口裕史)