チョークでも書けるフィルムを生んだ技術力
ガラスや壁紙に貼ることができ、その上から絵や文字が書ける。名づけて「チョイ書きフィルム」。
同じような商品は数あれど、「チョイ書き」ならではの特長は、静電気を使った貼り方ではないため長く貼り続けられること、そしてマーカーだけでなくチョークでも書けることだ。そこには同社が創業来、壁紙、フィルム加工メーカーとして培ってきた技術力が存分に生かされている。
主力事業は壁紙事業。50年前から「パインブル」のブランドでマンションや戸建て住宅向けに量産品からオーダーメードやリフォーム需要に応える一般用までを扱う。
自社工場を持つ一貫メーカーは他になく、顧客の声をすぐに製品化できる強みを生かして「デザインや環境、安全、耐久性に配慮した壁紙だけでなく、近年はマッスルウォールという商品名で施工性が良く、キズやニオイにも強いありそうで無かった壁紙や、抗アレルギーなど新たな機能を加えた壁紙も増やしています」と営業担当の久保氏。
また、2002年からは壁紙製造の一プロセスである塗膜技術を生かしてフィルム加工分野に進出した。光学機器をはじめとする工業用途でOEM生産を行っている。ただ、リーマンショックでは下請けゆえの事業リスクを味わった。「数カ月受注ゼロが続いたことがあり、壁紙のように自社商品を育てていかなければと痛感した」とフィルム加工部門を担当する山川氏は振り返る。
ある時企画担当の社員からアイデアがあがってきた。「ヨーロッパのカフェではガラスの壁にメニューやメッセージが書かれているのをよく見かける。それができるフィルムがつくれないものか」。開発プロジェクトがスタートした。
難所は二つあった。一つは、しっかり貼ることができる一方できれいにはがれるようにできるか。「壁紙の上に貼ることを考えた時、粘着力が強いとはがす時に壁紙ごと持っていくおそれがあった」。豊富な壁紙サンプルを使って貼ってははがしを繰り返し、適度な性能を持つ粘着剤の開発に1年を要した。
もう一つは、チョークでも書けるフィルムに仕上げること。PETフィルムの上に硬い皮膜を塗ることでマーカーのインクは載る。しかしチョークは書けない。そこで皮膜に凹凸加工をほどこすことで、チョークが削れて載るようにした。凹凸加工をかけると皮膜が傷つきやすいが、蓄えた塗膜技術のノウハウが生かされたという。
当初は透明フィルムだけを発売する予定だったが、「壁をホワイトボードにしたい」という声をもとに白が、さらに「災害時の避難所で使いたいが、学校においてあるチョークも使えるようにしてほしい」との要望から黒板色(深緑色)が新たに加わった。
昨年の発売以降、カフェ向けのほかオフィスでのミーティング用や幼稚園・保育園での落書き用など用途がどんどんと広がっている。現在は防災市場向けに自治体への営業も強化している。「我々の思いつかないところでの使い道がありそう。改良を加えながら市場の広がりに応えたい」と技術に裏付けられた商品力で市場が拡がっている。
(取材・文/山口裕史)