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堺の伝統産業を衰退から守る 三代目の挑戦から生まれた新ブランド

2025.04.02

大阪・堺に受け継がれる染色技術「ロール捺染(なっせん)」。かつて50社ほどが担っていたが、今ではわずか10 社に。2014年に竹野染工は下請けからの脱却を決意し自社ブランドを立ち上げ、業界にはなかった「表裏で色が異なる染色技術」の開発に乗り出した。職人とともに挑んだこの試みが大手雑貨店やメディアで注目され、事業は大きく前進した。伝統を守りながら攻める経営のリアルとは?その挑戦の軌跡を追った。

江戸時代に繊維産業が発展した大阪・堺には、100年以上の歴史を持つ染色技術が今なお残る。図柄が彫り込まれた金型のロールに染料を流し、そこに布を通して染める「ロール捺染」もそのひとつだ。1970年代には50社ほどが生業としていたが、時代とともに数は減り、現在も残るのは10社ほど。そのうちの1社、竹野染工株式会社は2017年に自社ブランド「hirali(ヒラリ)」と「Oo(ワオ)」を立ち上げ、衰退の一途をたどっていた業界に新風を吹き込んだ。

ロール捺染による両面染色技術をもとに“重ねの色目”という日本古来の色彩文化に着想を得たブランド「hirari」。

「堺の伝統的な染色技術としては『注染』が有名ですが、ロール捺染も同じくらい歴史があります。これをもっと多くの人に知ってほしいとずっと思ってきました」。そう語るのは、ブランドの開発を率いた3代目の寺田氏。もともと旅行会社に勤めていたが、先代である叔父の急逝により2005年に家業を継ぐことになった。このとき、得意先から言われた「こんな業界やめとき」という言葉は今も頭に残る。当時の竹野染工の事業は、最終製品を仕上げる手前の染色加工のみ。「下請けを続けていては、いずれ自社も行き詰まるのは目に見えていました」。

転機が訪れたのは2014年頃。「布の表と裏で色を染め分ける商品は、まだ業界にない。ロール捺染の技術を使えば理論的にはできるはず」。そんなひらめきから、職人を説得して技術開発に着手。同時に自社ブランド商品の開発にも踏み込んだ。

「商品のデザインやコンセプトづくり、価格設定など、すべてが初めてだった」という寺田氏は「大阪商品計画」に応募し、専門家の指南を受けながら知見を高めていく。そこで出会ったデザイナーとは相性も良く、現在も続く仲だ。「コンセプトやデザインはすべてお任せして、あえて私からは何も要求しませんでした。私の主観が入ることでデザイナーさんの自由な発想を阻害したくなかったんです」。

このスタンスが功を奏し、誕生した2つのブランド「hirali 」と「Oo」は、大手雑貨店での取り扱いやメディア取材を通じて評判が広まっていった。自社商品を持ったことで、職人をはじめとする従業員に喜びが生まれ、離職もなくなった。それどころか、人材募集をかけるとすぐに定員に達するほどの応募が集まるという。その中から20代の職人が2人育っており、途絶えようとしていた伝統技術を未来へつないでいる。

和晒を輪っか状に縫い上げたネックアンダーウェア(首の肌着)である「Oo」。

現在は地域貢献を目的に、商品の出荷作業を行うB型就労支援施設も運営。生き残りをかけた自社商品開発の挑戦は、多くの人に働く喜びとやりがいを提供する事業へと発展した。「ブランドにはストーリーだけでなく“動き”が必要。これからも挑戦を続けて『生きたブランド』を見せていきたい」。

代表取締役 寺田 尚志氏

(取材・文/福希楽喜 写真/福永浩二)

竹野染工株式会社

代表取締役

寺田 尚志氏

https://takenosenko.jp

事業内容/ロール捺染による染色、繊維製品の製造・販売