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包丁の柄の端材に新しい命を吹き込む

2024.06.04

堺に集積する包丁産業の中でも辰巳木柄製作所は、握る部分の柄(え)を専門に作っている。4代目を継ぐ気はなかった辰巳氏だったが、建築学科で学んだ大学時代に、客観的に実家の仕事をとらえ伝統産業の魅力に気付いたという。

大学の研究では、鍛冶、研ぎ、柄に分かれた業者が柔軟に結びつくことで多様な包丁ができあがるネットワーク構造を解き明かし、新しく職人の世界に入ってきた人たちが一つの場所に集い、工房として使えるレジデンスの設計案をしたためた。

堺でも数軒しか残されていない、手作業で作られた包丁の持ち手。

大学院を卒業後は家業に戻り、刃を差し込むための穴あけ、柄の形状を整える面取りなどの作業を学ぶうち、この技を広く応用できないかと考えた。目をつけたのは柄の長さを調節する時に出る端材。400のアイデアをひねり出した中で、穴を生かし素材の魅力が伝わる一輪挿しを商品化することにした。

手仕事の技術でつなぎ合わせた見た目も握り心地も独特な一輪挿し。

SNSでは「素材は聖徳太子が持つ笏(しゃく)に使われていたイチイという木で、寺社をイメージしてデザインした」など、一つひとつについて素材やデザインに込めた想いを伝えている。新たな命を吹き込まれた端材に感銘を受け購入していく人が多いという。

「周囲の人が僕の活動を周りの人に伝え、広まっていることもうれしい」と辰巳氏。柄づくりでも色彩豊かな外材を使うなど新たなことに挑むとともに、その端材を使って商品のバリエーションを広げ、一輪挿し以外にもさまざまなアイデアを温めている。「新たな職人が後に続くように、まず僕が成功事例を作らないと」。それが職人レジデンスを作る目標への近道でもある。

辰巳 博康氏

(取材・文/山口裕史)

辰巳木柄製作所

辰巳 博康氏

https://tatsumimokue.base.shop

事業内容/包丁の柄の製造