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厚物縫製技術で消防用ホースをバッグに変える

2024.06.07

株式会社福永は1947年創業の縫製メーカーで、分厚くて固い素材を使った厚物縫製を得意としている。例えば工具を入れるツールケースの場合、4層の厚紙を重ねた芯材を精度良く縫い合わせている。

「生地の裁断から縫製までを一貫して請け負える強みを他の製品づくりにも活かせないだろうか」。そう考えた代表の福永氏は2008年、インターネットの掲示板で「厚物なんでも縫えます」と呼びかけたところ、解体工事業の方から「消防用ホースを素材にバッグを作ってほしい」との相談が舞い込んだ。

代表取締役 福永佳久氏

消防用ホースは、合成繊維を編み込んで作られており、ホースの内側にはポリウレタンコーティングが施され、高い水圧に耐える丈夫さに加え、防水性を兼ね備えている。消火栓に収納されている消防用ホースは10年ごとの点検が義務づけられているが、点検費用が高いため買い替えられるケースが多く、古いホースはゴミになってしまう。それを再利用できないかと考えたのだ。

10年ごとに点検ではなく廃棄される場合が多い消防用ホース。

どうすればバッグを効率よく作れるか。福永氏は、20mのホースを巻き上げて5mの筒状にしたうえで輪切りにした生地を縫い合わせてバッグにする手法を考えた。ホースは、折り目やよれ、曲げなどの癖がついているため、内側に貼る布とサイズを合わせるのに苦労し、商品化までに2年を要したという。だが商品化されると、素材が消防用ホースというユニークさもあってメディアに取り上げられ、次々に新たな依頼が舞い込んだ。

ヒット商品であるランナーズポーチ。

しばらくはバッグメーカーからのOEMに専念してきたが、昨年知り合いを通じて直接消防用ホースを仕入れるルートが開拓できた。自社ブランドを作るチャンスととらえ、以前に甥のためにつくった野球用のバットケースを商品化することにした。甥が使っていたときに聞いていた「生地が泥で汚れやすい」という課題を克服すべく、ホースの内側を表地として使うことを思いついた。「ポリウレタンは水洗いすれば汚れが落ちる。水もはじくし、雨にも強い」と福永氏。

ホース内側の通水面を使用することで耐水性に優れ、洗うこともできる。

厚物生地を多様な商品にアップサイクルできるという同社の評判を聞きつけ、今ではさまざまなところから廃材生地を使えないかという相談が増えている。作ることに専念していた頃とは異なり、売ることまで考えなければならないが「どの素材をどんな形でだれのためにどこで売れば買ってもらえるのか。そのストーリーを考えるのが楽しい」と福永氏。例えば、ヨットの帆布と海図を生地にしたバッグはヨットハーバー近くのレストランで売っており、ヨット愛好者に好評だ。エアバッグ、シートベルト、高速道路の横断幕…。続々と持ち込まれる廃棄材料をどう“ 料理”するかを考えることが、福永氏のやりがいになっている。

(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)

株式会社福永

代表取締役

福永 佳久氏

https://www.fukunaga-bag.com

事業内容/厚物生地の縫製