自社ブランド、綿花栽培…殻破る老舗の挑戦
東淀川区の住宅地に囲まれた広大な敷地に高さの異なる工場の建屋が並ぶ。
「高い工場は、生地をさらしたあと高い竿にかけて天日干しをしていた戦後の名残です」と飯田氏。工場内には生地の表面を滑らかにするシルケット加工の機械や、染色加工機械がずらり。
国内で消費される生地のうち国内で加工されるものは数パーセントにすぎないが、得意先の大半は大手アパレルメーカーで、限られたマーケットの中で存在感を発揮している。
強みの一つが、指定された色の正確な再現力。これを可能にしたのが30年前に取り組んだ染色工程の全自動化だ。投入する多様な薬品を注入するタイミングや量などを職人の勘に頼ることなくデータで管理。求められた色を一度で出す“一発率”は95%で他の追随を許さない。
加えてIT化にもいち早く取り組み、すべての工程の進捗状況を見える化。効率的な生産を可能にし、短納期化に寄与している。急な製造依頼があっても柔軟に製造ラインに滑り込ませることもできる。進捗状況については得意先にも共有し、安心感を与えている。
染色加工はすべて委託加工のため、「自分たちで主導権を持ったビジネスをしたい」と2019年、倉庫を改修して新たに縫製工場を立ち上げた。
当初はアパレルメーカーが展示会に出すサンプルの縫製を手がけていたが、2020年初頭からのコロナ禍がまともに直撃。窮余の策でマスクの生産に乗り出し、図らずも自社ブランド展開の糸口をつかむ一方、コネクションづくりで全国を駆け回り、さまざまなコラボ商品を実現していった。
お笑いコンビ「キングコング」西野亮廣氏が手がけるブランド「CHIMNEY TOWN」のTシャツもその一つ。大阪芸大生で若者に人気のストリートアーティスト、イブちゃんと共同開発したヘビーウェイトのTシャツは6月、阪急うめだ本店のポップアップショップでも販売された。
今後も限定生産で圧倒的なクオリティにこだわった高級肌着を製造するプロジェクトを考えるなどアイデアは尽きない。
2020年5月には工場の敷地の一角を使って綿花を栽培するプロジェクトもスタートした。
「地域の子どもたちに綿花に触れてもらう“服育”を通じて、ふだん着ているものがどのように作られているのかを知ってもらうことで、ものづくりや環境に興味を持つきっかけになれば」。
社員からも「自由」と評される飯田氏の「どうせやるなら面白いことを」という枠にとらわれない挑戦が創業120年の老舗を勢いづけている。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)