伝統技法と独自の重ね織りが光る泉州タオル
日本のタオル産業の発祥地・大阪泉州で生産される泉州タオルの特徴は、「後ざらし」という工程。
織り上げた生地に付着している糊や、綿糸の油分・不純物を洗い落とすことで、綿本来の吸水性と柔らかな肌触りを実現。おろしたてでも安心して使えるタオルに仕上がる。
創業110余年の神藤タオルは、泉州地域の3軒の家が起こした合同会社がはじまり。国内のタオル需要が伸び、最盛期には約800のタオルメーカーがあったが、中国製タオルの台頭などで現在は10分の1まで減ったという。
そんななかでも、神藤タオルは高い生産力と職人の技術力を武器に、OEM生産を増やして継続してきた。
家業を継がず大手金融企業に勤める父のもとで育った神藤氏。大学3年のときに、東京まで足を運んだ先代の祖父から初めて、跡を継ぐ気があるかと聞かれた。「承諾したのは、そうなるものだとなんとなく思っていたから。いや、何も知らないから跡を継ぐなんて言えたんですよね」。
大学卒業後に来阪。現場の仕事をひと通り経験した28歳のとき、経営についての引き継ぎがないまま祖父が亡くなった。
自社ブランドの立ち上げを意識しはじめたのは、代表に就いて2〜3年が経ったころ。関西の企業とクリエイターをつなげてものづくりを行うプロジェクト「made in west」に、「2.5重ガーゼ」が採用されたことが大きな転機となった。
「2.5重ガーゼ」には、3重ガーゼの真ん中の生地を半分にするという独自の重ね織りが駆使されていたが、まだ試作段階。それが、デザイン会社とのコラボによって、魅力的な商品に生まれ変わったのだ。
デザインの力に感動した神藤氏は、大阪府が中小企業の新商品開発を支援する「大阪商品計画」に応募。後ざらしに倍の手間をかけた超高吸水の「ユキネ」、ガーゼとパイルの良さを兼ね備えた「インナーパイル」をラインナップに加え、新しいデザインを踏襲したファクトリーブランド「SHINTO TOWEL」の立ち上げを叶えた。
いまや「2.5重ガーゼ」は、薄手でしっかり吸水するのに乾きが早い実用性と、洗練されたナチュラル感が評判を呼び、バスタオルだけではなく、ストールやブランケットとして使えるサイズも展開する人気商品に育っている。
「自社ブランドを立ち上げてから、仕事のおもしろさがわかってきました。神藤タオルの品質や技術力を広め、多くの方に喜んでもらいたい」と話す神藤氏。先人が培ってきた技術や経験を絶やさないために、人材の育成や海外展開にも力を入れていくつもりだ。
(取材・文/花谷知子 写真/福永浩二)