確かなIT技術を武器に「本質的な人の幸せ」を追求する
「テクノロジーの進歩人の幸せと直結させる」。
信念を込めて語るのは、アイガー株式会社を率いる田中氏。DX領域を主戦場とする同社の事業にかける想いや今後の展望について伺った。
大学卒業後は人材紹介会社でキャリアアドバイザーとして2年従事したのち、2015年にアイガーを設立。ITとの出会いは新卒入社の会社のIT事業部門で働く先輩が独立し、その会社でアルバイトとして働いたことがきっかけであった。
その後、まずは会社の基盤を固めるために、Web制作やシステム開発へと事業をシフトする。ただ田中氏自身はエンジニアではないため、まずは地道に仲間を集めていったという。「勉強会などを通じてネットワークを広げ、出会った人に声をかけたり、紹介してもらったりしながらメンバーを増やしていきました。だから今の主力メンバーに一般採用はほとんどいません」と振り返る。
そこからはクライアントの要望に応えるごとにサービスの幅が広がり、企業の業務システムやアプリ開発、ECサイト構築、コンサルティングなど、確かな技術力でデジタルを活用したソリューションを提供してきた。顧客の事業課題と向き合い、そこに本質的な解決をもたらすことにこだわる姿勢や、エンドユーザーのUXも含めた包括的なアプローチには定評がある。
2018年頃からはAIの技術習得にも力を入れ、まだ競合の少なかった時期に事業基盤を構築。現在は顧客の要望に応じてAI開発を手がけている。ただ、いかにAIがすぐれた技術であっても、やはり重視するのは「本質的な幸せ」だ。その「本質」とは何か。教育を例に説明してくれた。
「例えばインターネットによって、有名な予備校の授業をオンラインで安く受けられるサービスが生まれました。これは利便性を高めて裾野を広げる、というメリットはありましたが、教育そのものの本質的な価値を高めたわけではありません。一方、AIが家庭教師のように寄り添って一人ひとりの能力を上げてくれたら、その人の本質的な幸福につながります。AIはこのような価値をあらゆる産業で生み出せる可能性があると思っています」。
このように田中氏が「本質的な幸せ」を追求し続ける背景には何があるのか。「私は昭和63年生まれで、インターネット技術がどんどん発展する中で10代を過ごした世代です。この過程で、画一的で一方通行だった情報の経路が多様化し、特定の人だけが人気者になる時代から、一人ひとりが多様な価値を発揮できる時代に変わったのを感じていました。その経験から『一人ひとりが主役の人生とは?』とか『経済指標では測れない本当の幸福度とは?』といったことに目を向けるようになったのだと思います」。
この思想はアイガーが掲げる「球体型企業グループ」という経営戦略にも表れている。これはトップダウンで事業を進めるピラミッド型組織ではなく、事業ごとにグループ企業を作り、そこで“主役”として価値を発揮できるリーダー人材を生み出していくものだ。また、今月から京都に共創ラボを開設し、現地の大学生と共同でAI事業の開発に取り組むという。学生には有償で事業開発プロジェクトに従事してもらい、将来的な起業やビジネスリーダーとしての活躍を後押しする。

今月からスタートする共創ラボイメージ
デジタルの世界に身を置きながら「人の幸せ」という価値を追求する田中氏。最後に「AIは人を幸せにすると思いますか?」とシンプルな質問をぶつけてみると、意外な答えが返ってきた。「私はこのままでは脅威の方が勝ると考えています。人間が制御できなくなるレベルで悪用されるリスクがあるからです。だからこそ我々が ”テクノロジーの進歩を人の幸せと直結させる” 企業グループとして大きく成長していかなければならないと考えています」。

代表取締役 田中 尚樹 氏
(取材・文/福希楽喜)