《講演録》小さなエビ工場の奇跡
≫「好きなこと」だけをするのは、決して悪いことじゃない。
たとえば私は「掃除」が大嫌いです。その話をしたときパート従業員から「私は好きです」という声がでました。興味深いと思ってみんなに聞いていくと、掃除ひとつだけとってみても「好き」と「嫌い」が大きくわかれました。「これは、他の業務も好き嫌いがわかれる」と考えアンケートを実施し、表にまとめました。
この「好き嫌い」の表を、当社では公開しています。最初は躊躇がありましたが、こんなエピソードがあったことで、公開に踏み切りました。
当社では就業時間内に、面談をたくさんするようにしています。個人面談の中で「エビの計量は嫌いだけど、次の工程の人のために無理してやっている」というAさんの話を聞きました。しかし、別の人に聞くと「私は、エビの計量が大好きなのに、Aさんが私の仕事をとっている」と怒っていたのです。まったく話が噛み合わない。それなら、公表してお互いの気持ちが分かった方が、みんなにとって幸せだと考えました。
「仕事」というと、みんなが“困難に立ち向かうべきだ”という呪縛にかかっているように感じます。しかし、時給で働いているパート従業員にとっては、立ち向かうべき困難は家庭など別のところにあると思うのです。無理して「エビの計量に立ち向かう」必要はありません(笑)。
「好きなことだけをすることは、悪いことではない」という会話を続けることで、当社では、この呪縛から解き放たれたと思っています。
≫人は争う生き物。人生はお花畑ではない。
「人が集まると、勝手にお互いにニコニコしあって、物事がうまくいく」なんてことは、おとぎ話です。人が集まると争いが起こるし、工場内でももちろん、紛争の芽は絶えず生まれます。
だからこそ、争わないために「どうしたらいいか」を考えて、会社として工夫をするべきなのです。工場の仕事は正直、楽しいものではありません。「エビの殻剥きって面白い仕事だよね」と大きな声で言っても、パート従業員はしらけると思います。そのために、『働き方改革』を推進すると共に、争いの芽が育たないように全力で取り組んでいるのです。
たとえばパートさんの時給は、みんな一律。6年目のベテランも1日目の新人も同じ時給。役職も設けていません。ポジションや給与で差をつけるから、争いのもとになると考えているからです。会社の利益が伸びたら、「全員時給50円UP」という風に、差をつけることなく、みんなに還元しています。
あとは「何か問題提起があった時に、犯人探しが行なわれないようにする」など、本当に細かい配慮ですね。そのために必要なのが、就業時間内のこまめな面談だと思います。
≫実は最初、メディアで取り上げられなかった『働き方改革』。
今ではメディアで取り上げられることも増えましたが、『働き方改革』をスタートした時、誰も振り向いてくれませんでした。ビジネス系のニュース番組から問い合わせがきたこともありましたが、あまり反応は良くなかったですね。
そこでやってみたのが、新聞への投書。実は私、ちょっと変わっているのですが、投書が趣味なんです。そこで新聞に投書をしたら、それが掲載された。そこでSNSを使って情報を発信することに。ところが、こちらが必死になればなるほど、みんなが引いていくんですね(笑)。
諦めていた時に、投書の記事を誰かが写真付きでツィートしてくれて、一気に拡散されました。それを新聞社が取り上げ、当社の取り組みが大きく掲載されることになったのです。それ以来、私は小さなことでも、こまめに情報発信をするようにしています。
(文/仲西俊光)