ものづくり

球面加工技術を応用した人工股関節で国内外市場を狙う

2017.08.16


立つ、歩く、座る――こうした人間の基本動作は体重を支える股関節が正常に働いてこそ可能となる。この股関節に障害があると痛みが生じるうえ、可動域が制限されるなどして日常生活に支障をきたしかねない。

そこで活躍するのが人工股関節。人体の股関節は、大腿骨上部の丸い骨(骨頭)が骨盤のくぼみ(寛骨臼)にはまり込むかたちで形成されている。その機能を代替する人工股関節は、大腿骨に埋め込む「心棒」、心棒上部の「骨頭」、骨頭がはまり込む「カップ(寛骨臼)」の3点が組み合わさって構成されている。

真球度と表面粗さの精度の両立で長寿命化が実現し、患者負担の軽減に貢献。

木田バルブ・ボールは人工股関節のこの3点のうち、骨頭とカップ(以降、球体セット)を10年以上にわたり手がけてきた。

1964年の創業以来、工業用のバルブボール(配管内の水や空気、ガスなどの流れを制御する部品)を製造してきた実績をもとに、12年前に医療分野(人工股関節製造)に参入。以降、累計で1万2000組の球体セットを提供している。

なぜ同社がこの分野に参入できたのか。秘訣は、“限りなくまん丸、限りなく滑らか”を追求したコア技術だ。

ステンレスなどの金属を球体に加工する際、「真球度」と「表面粗さ」の精度を共に高める必要がある。「当社は専用機の開発を通して球面切削技術と球面研磨技術を向上させ、市場が求める以上の精度を実現してきた実績があります」と木田氏。

ステンレス製バルブボールに木田あり――業界が認めるその技術力に目をつけた商社から連絡が入り、人工股関節の球体加工に取り組むことになったのだ。

同社製品の真球度の精度は「0.1~0.3μm」、表面粗さの精度は「0.003~0.006Ra」。メーカー基準値をはるかに超えるレベルで他社の追随を許さない。

「しかし開発を始めてみると、工業用と比べて求められる精度が格段に高かった」と振り返る。人工股関節同士がこすれ合う関節部分は磨耗によるゆがみが生じるため、真球度と表面粗さの精度を極限まで向上させなければならない。

「ところが真球度と表面粗さはトレードオフの関係にあり、どちらか一方を追求すればもう一方の精度が落ちてしまう。両者のバランスを保ちながら、1年かけてメーカー基準に達する精度を実現させました」。

高精度検査機により様々な角度から精度検査を行っている。

現在、球体セットはメーカー1社に供給している状況だが、「この10年の実績を武器に国内外に販路を広げたい」と同氏。そのために医療系展示会に積極的に出展しているほか、関連する医療学会にも出席して医師との関係づくりを進めている。

「工業用メーカーが医療分野に参入し、医工連携によるものづくりで成功している事例として注目いただき、すでに国内外のメーカーから引き合いをいただいています」。

販路開拓を進めていくと、「国内メーカーと海外メーカーでは求める品質や精度、そしてコストにも違いがある」ことがわかってきた。国内と海外で攻め方を変えつつも、多くの人たちの身体を支えるための努力は惜しまない。

代表取締役社長 木田 浩史氏

(取材・文/高橋武男)

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木田バルブ・ボール株式会社

代表取締役社長

木田 浩史氏

http://www.kvb.jp

事業内容/ボールバルブ用弁体ボールの製造販売