自分を取り戻すために選んだ起業スト-リー
連載【起業家図鑑】
大阪産業創造館 スタートアップ支援チームのプランナーが月替わりで起業家を紹介する連載コラム。
起業を志したキッカケや、困難に直面したとき乗り越えた方法、また事業を軌道に乗せるために必要なことなど。一歩先をいく先輩起業家の体験談をプランナー目線で紹介します。
vol.7 自分を取り戻すために選んだ起業スト-リー
起業する理由は人それぞれです。お金儲け、自己実現、働き方の問題など、起業する人の数だけ理由があると思います。
今回ご紹介する女装紳士の井上今里(いまり)さんは、自分を取り戻すために起業という道に進むことになりました。
幼い時から絵を描くことが大好きだった今里さん。19歳で現代画家としてデビューするも4年で挫折。夢を失い、借金も背負い20代で大変な苦労を経験しました。その頃は、全く笑うことが出来ない時期だったと言います。
そんな時、メイクアップアーティストの勉強をした経験がある今里さんに、男性の友人から「笑いにきびしい大阪の人を笑わせるために、女装メイクをしてサプライズしたい!」という依頼がありました。
結果、そのサプライズは成功し、周りの人がとても喜んでくれたことで、メイクの技術が人に元気を与える力を持っていると感じたそうです。また、男性へメイクすることの難しさを知り、技術を磨くためにSNSでモデルを募集したところ全国から依頼が殺到。それから約5年かけてメイクの技術を学び、次第に依頼数も安定してきたこともあり、起業の道を選びました。
今里さんの事業は「モノ」ではなく「体験」を提供しています。客の年齢層は幅広く、20代から70代まで。特に急増しているのが40、50代だそうです。心の中に秘めている欲求や誰にも相談できない悩みを持つ男性が、女装に至った経緯は人それぞれ。顧客が求めている本質的な「価値」を提供することは、事業をする上でとても大切なことだと改めて教えられた気がします。客が求める「価値」を提供し、喜んでもらう経験を通して、今里さん自身も笑顔と自信を取り戻せたと言います。
自分と同じ価値観をもった人たちを幸せにし、そしてそれが何より自分自身の幸せに繋がる。今里さんのように考える起業家が一人でも多く増えてほしいと感じました。
(取材・文/大阪産業創造館 スタートアップ支援チーム プランナー 石嶺 一樹)