マッサージを数値で見える化!看護師のためのトレーニング機器を開発
【起業家図鑑】大阪産業創造館 創業支援チームのプランナーが月替わりで起業家を紹介する連載コラム。起業を志したキッカケや、困難に直面したとき乗り越えた方法、また事業を軌道に乗せるために必要なことなど。一歩先をいく先輩起業家の体験談をプランナー目線で紹介します。
【起業家図鑑】vol.34 マッサージを数値で見える化!看護師のためのトレーニング機器を開発
病気で身体や心が辛いとき、優しく触れてもらうことで安心感につながったなどの体験をお持ちの方もおられるのではないだろうか。実際に、看護の世界では、触れることは看護の原点とされ、患者さんに触れることで安心感と信頼感、治療への意欲を高めるという。
看護師は脈を取ったり、採血・点滴などで注射をする他に、体を拭いたり、寝返りを手伝うなどで患者さんの身体に触れており、時には療養中の患者さんに、マッサージすることもある。ときには痛みを訴える患者さんの不安な気持ちを落ち着かせるために、身体に触れることもある。
病を抱える患者さんは常に不安を抱えており、看護師のちょっとした対応の違いで、「自分のことを思ってくれていない」と不信感を抱くこともあるそうだ。
そこでアイグレー合同会社は、看護師が患者さんに触れるケアを数値化することで、看護師の触れる技術を向上させるトレーニング機器を開発した。
同社は、2017年に鍼灸師の前川氏と看護師の見谷氏によって、看護師のためのタッチング技術「メディカル・タッチ®」を広めるスクール事業として設立された。設立前から看護師の触れるケアを研究しており、2018年、副代表の見谷氏のメディカル・タッチ®を検証した論文が、日本看護技術学会誌に掲載された。
科学的にマッサージなどの触れるケアを追求し続け、2021年1月には、学校法人青淵学園 東都大学、看護学科の岡本佐智子教授を共著者に、看護師向け専門書「看護にいかす 触れるケア」(中央法規出版株式会社)の出版に至った。
同社が教えているメディカル・タッチ®は、筋肉をほぐすマッサージとは違い、皮膚の上にある感覚受容器を刺激することで、心身のリラックスを脳から促す技術である。
看護師や介護福祉士向けに、エビデンスに基づいた触れるケアの技術を研修や講座などで提供、また、昨年からはオンラインでも実施している。
2017年のIAGベンチャーサポート発表会に看護師研修をテーマに登壇、また2019年にはIAGハンズオン支援プログラムにも採択され、支援を受けることとなった。
支援を受けた2018年には看護師研修を実施。2019年には更なる拡大をめざし「この技術を求める人がもっと存在するのでは?」とハンズオンの支援を受け、看護師以外の新たなターゲットを求め、WEBの解析やPR用冊子の作成を行うことに。
冊子を作るにあたり、クリエイターと企業をつなげる施設「メビック」でクリエイターを募集。理念を理解してくれるデザイナーと出会い、メディカル・タッチ®の技術やポイントがわかりやすく伝える冊子が完成。医療関係者以外にも認知が広がった。
さらに同支援でWEB解析士のアドバイスを受け、ブログでの情報発信を始めた。ちょうど流行の兆しが見え始めた新型コロナウイルス感染症に対応した感染症対策の情報を、監修医師に相談し、ブログで発信したところ閲覧者が激増。その効果は2021年の現在も継続している。
2020年、新型コロナウイルス感染症によって看護学生が実習で患者に触れられないことを、面識のある看護系の大学教授から聞き、研究中の触れるケアのトレーニングの機器の開発に至った。
神戸市の公益財団法人の補助金の支援を受け、試作機を開発。2021年は実装化に向けてテストを行っている。このトレーニング機器のプランは、池田泉州銀行の「第21回ニュービジネス助成金オープンイノベーション賞、南都銀行の第7回<ナント>サクセスロードの奨励賞を受賞している。
同社は「触れるケア」を広めることで、看護師の技術発展をめざし、このマッサージトレーニング機器の実装化の協力企業を募集している。
(取材・文/大阪産業創造館 創業支援チームプランナー 春田 千尋)