会社の資金の流れを見える化し売上と利益に責任を持たせる意識改革
靴の卸業は在庫ビジネスです。タイミングよく仕入れを行うためには、手元資金や在庫量などを営業が把握しておかなければなりません。しかし当社の場合、私の父が代表で母が経理を担当するといった家族経営の状態が長く、営業一筋だった私は経営にタッチしてこなかったんです。2008年12月に取締役社長に就任した際、会社の資金の流れがわからず、「これではいけない」と改革を進めることになりました。
まず流通大手で活躍されていた方を顧問契約で再雇用し、アドバイスをもらいながら私自身が経営数字を学びました。その上で社員にも経営資料を公開し、見方を教えると同時に売上から回収までの資金の流れを説明。そして目標管理シートを導入し、担当者別の売上管理を行うことになりました。
昨年9月には月次決算も導入しています。そこで月次の試算表から営業担当一人ひとりの損益計算書を作成し、経費と儲けの関係を意識させるようにしました。早い話、給料分を自分の力で稼いでいるか、ということです。そうして数字を意識することで、自身の売上と利益に責任を持つようになってきましたね。たとえば以前は納品が月末に間に合わなくても「遅れました」の一言だけでしたが、最近は顔色を変えている。「今月の売上目標に達しない」と。あるいは売上目標を立てる際、目先の利益だけでなく、少し先を見た計画を立てるようになってきた。いい兆候ですよ。
ただ、数字の管理だけで、社員に仕事の面白さを見出してもらうのはやっぱり難しい。うちの社員は本当に靴が好きな人間ばかりです。彼らのそもそもの楽しさってそこですから。だから各自企画したオリジナルシューズを半期に2足つくるという、強制力のないノルマも設定しています。「彼女や彼氏に自慢できる靴をめざせ」と(笑)。
みんなで売上目標を達成し、努力して儲けたお金で好きな靴づくりにもチャレンジする。定量評価と定性評価のバランスを取ることで、社員のやる気につながると考えています。将来は一人ひとりが自分のブランドを持ってもらえたら本望ですね。
▲第1月曜日に「営業会議」を実施し、各社員が売上目標と成果を発表する。「社員と私で〝数字〟という共通言語ができたおかげで、めざすべき方向性が一致してきました」(野口社長)
▲営業管理や人事考課など社内規定をまとめた「ルールブック」。管理されることを嫌がり辞めてしまう社員もいたが、一方で婦人靴の経験のあるスタッフを採用して婦人靴事業に参入、ネット販売を実現した。
▲オリジナルシューズの企画にも力を入れている。日本の工場はもとより、イタリアやスペインなど世界のメーカーとコラボして企画・生産。手前右の靴はウナギの皮を使うなど、こだわりの商品がズラリ。
野口彦株式会社
取締役社長
野口 貴弘氏
設立/1939年
従業員数/9名
事業内容/ヨーロッパを中心に世界の靴を扱う靴専門の卸会社。世界の靴メーカーとのネットワーク力を強みに、オリジナルシューズの企画・生産にも力を入れる。現在はネット販売も行い、今後は小売業態への進出もめざす。