「水族館みたい。これって全部食べられるの?」
大阪中央卸売市場の水産物卸業者の中でも最大規模の売り場面積を持つ利州。
サゴシ、ハモ、マナガツオ、アカイカ、アワビなどの魚介類が所狭しと並んでいる。
箱の中で泳いでいるタイを見つけた祐朱希(ゆずき)ちゃん。
「水族館みたい。これって全部食べられるの?」とお父さんを見上げながら聞く。
「食べられるものしか並んでへんねんで」と上田氏。
魚の消費量は年々減る傾向にある。魚離れを食い止めるために何ができるのか。
「一つはさまざまなおいしい魚があることを知ってもらうこと」。
そのために売り場の社員はプロの目利きとして、どんな要望にも応えられるよう知識を持って売っている。
「創業者である父は、大半の業者が午前3時ごろから市場に出勤するところを0時には出て、集まってくる魚の中から活きのいいおいしい魚をいち早く仕入れました。そして卸先のスーパーの売り場に魚をさばかずに丸ごと並べることを提案しました」。
直前にさばいた方が新鮮でおいしいと気づいた消費者が常連として店につき、スーパーの出店戦略に貢献した。
「魚の食べ方を知っている人も少なくなってきました。貴重な水産資源を大事にしていくためにも、魚一匹を丸々食べつくす食べ方を知って、楽しんでもらいたい」。
上田家でも例えばカツオを丸ごと持ち帰り、片身は刺身に、片身はから揚げにして食べ、それでも残った分は焼いたり、炊いて食べることがある。
「一つの魚を多様に楽しむことができ、かつ経済的」と上田氏。娘の祐朱希ちゃんも好き嫌いなく魚介類を食べているという。
近年は、「見て、体験して、味わえる食育パーク」をテーマに市場内で開催される「ざこばの朝市」に参加。
また、今年5月には市場のすぐ近くに寿司職人養成学校である東京すしアカデミー大阪校も開設した。
寿司職人だけでなくスーパーの鮮魚担当、そして水産物を扱う会社の経営者にも受講を促している。
2ヶ月のコースで既に寿司職人として海外に飛躍する卒業生もおり、「海外でしっかりとした知識を持った寿司職人が出ていくことで、和食文化をしっかり伝えることにもなる」。
親子での寿司握り体験などのイベントを開いたときに参加した祐朱希ちゃんは「あぶりエビがおいしかった」。思わず笑みがこぼれる。
「水産物卸は男の世界やから、娘には継いでほしいとまでは言わないけれど、せめて魚好きになって、自分で料理をして少しでも魚の食文化を広めてくれれば」と上田氏は考えている。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)