「僕が好きなんは、月曜日」
イタリア靴の販売を行うTerrace。森田氏が自らミラノに出向き、商品を直輸入している。
櫻輔君の妊娠がわかったのは創業から3年目。妊娠8ヶ月で海外出張をこなし、陣痛が始まる直前まで仕事をした。年の瀬が押し迫る12月下旬に出産。3日後に退院し、真っ先に向かったのが銀行だった。取引先への振り込みを年内に済ませるためだ。
小さな路面店からスタートしたが、創業から9年目の現在は、大型百貨店内に店舗を持つまでに。
ただし、最初から順風満帆だったわけではない。Terraceの魅力はイタリアから最新の靴を早いサイクルで紹介できることだが、その反面、タイミングを逸したら売り切れのこともある。路面店とは違い、百貨店では在庫の確保が求められる。
▲代表取締役 森田 祥子氏
「いつも新しいものがある。あの店でしか買えない物がある」。そう言われるお店をめざすという思いを担当者に何度も伝えた。「百貨店への出店のおかげで知名度もあがったので、なんとか恩返しをしたい」。そんな思いもあり、少しずつ理解を得ることができたという。
新鮮な商品構成が魅力のTerraceにとって、年に数回のミラノ出張はまさに正念場。
6歳になった櫻輔君は、祖母の家で母を待つ。
帰国すれば、1泊2日で恐竜博物館へお出掛けが待っている。
「息子の中で、海外出張と恐竜博物館はセットなんです。一緒に行っても、真剣に見入る息子の背中を見ているだけなんですけどね(笑)」。
好きになったものをとことん貫いてほしい。そんな思いで、櫻輔君にじっくりと付き合う。
母になってから、日常の働き方も変えた。以前は営業終了後も残って仕事を片付けないと帰れなかった。今はお店を閉めたら、まっすぐ家に帰る。
定休日の月曜日の朝、櫻輔君と一緒に店に立ち寄り、片づけを済ませてから釣りに出かけたり、水族館に出かけたり時間を忘れて没頭する。なかなか仕事が頭から離れないこともあるが、この時ばかりは櫻輔君との時間。櫻輔君にとっても、月曜日は一番好きな日だ。
「お母さんは靴とお仕事が大好き。でも、僕のことはもっと好きやねん」。
小さな笑顔が、世界をまたにかけて活躍する母を支えている。
(取材・文/北浦あかね 写真/内山光)