「このお金、お父さんの財布から出てるんちゃうで」
電気分解したアルミを透明ガラスに蒸着させてできあがる鏡づくり。大きな真空タンクの前で初めてその工程を目にした丈翔(たける)君。
「このアルミがガラスにくっついて鏡ができるねんで」と鏡膜の原型であるV状のアルミ材を手にしながら説明する父、健氏のひとことひとことに興味津々の様子だ。
祖父、善孝氏が創業したのは、健氏が小6の時。中高生の時は時間の空いている限り工場で手伝いをさせられた。友達と一緒に遊びたい盛り。嫌な顔を見せると「何で食えてると思てるんや」と善孝氏から声が飛んだ。
家業から脱皮し、下請けからメーカーへと成長させた善孝氏から昨年バトンを受け継いだ健氏は今その言葉の重みを深く感じている。
2005年に開発し、特許も取得している鏡「ナピュアミラー」は、そのままの自然な色を映し出すことから「メイク専用ミラー」として化粧業界やカラーコーディネートのプロに愛用されている製品だ。
その秘密は、透明度の高い高品質のガラスに高純度のアルミを真空蒸着する技術と徹底した生産管理力で成り立っている。「こんな鏡があったらというニーズをつかみ、自社の持つ技術で商品開発できることが何よりの強み」と健氏は言う。
▲代表取締役社長 北出 健氏
ガラスの洗浄、アルミ蒸着、塗装、切断、面取り、印刷などさまざまな工程による分業体制で成り立ってきた鏡業界。
同社も創業時は切断加工でスタートしたが、その後安価な輸入品に押され協力工場が次々と廃業した。
必要な加工の内製化と新しい技術の開拓を進め、一貫メーカーとしての力を付け「多品種少量のキタデ」としての評価を築いた。
▲取締役会長 北出 善孝氏
6年前に、ネットで最終ユーザーに直販を始めたことが同社の転機となった。
「お客様からの直接反応が返ってくることでやりがいが得られるようになり、ユーザーを考えた商品開発ができるようになった」からだ。
創業者である父、善孝氏がつくった「会社は社員にとって個性を認め発揮し合う舞台である」ことをうたった理念をもとに「技術、営業、広報を担うすべての社員がお客様を意識して仕事ができるようになった」と語る。
丈翔君を助手席に乗せて取引先を一緒に訪ねることがある。
「昔の自分もそうだった。職人たちの笑顔や工場の匂い、車中での父との会話が自分の礎となった」。
おもちゃを買う時は「このお金、お父さんの財布から出てるんちゃうで」と言う。お客さん、そして社員のおかげで自分たちがあること、常に感謝することを伝えるためだ。
今はその言葉が深く理解できなくても「いつかそういうことを言いたかったんやな気づいてくれれば」。
取材後、丈翔君に「大きくなったら鏡つくる?」と尋ねると大きくうなずいた。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)