【長編】会社を「家族」にするためにどうすればいいか。社長と妻の社内改革奮闘記。
社長の見守る姿勢、現場は自分の頭で考えるように
こうした三島社長の変化を感じ取っているのが工場長の三宅さんだ。
「社長が変わって、あゆみさんのおかげで会社の雰囲気が良くなりました。さらに私も社外研修に参加させてもらうようになり、自分自身、成長してきていると実感しています。昔の私はただ単に働いていただけでしたが、いまは人の役に立つ仕事をすることが生きがいになっています」。
そう静かに語る三宅さんは、かつて工場長に自ら立候補した経緯がある。
「リーマンショック後の苦境時に、稼働を上げるために請けた仕事の影響で現場が混乱し、前工場長が役職を降りてしまったんです。そのとき、『僕が工場長をやります。このままいくと現場はバラバラになる』と自ら名乗り出てくれて。彼のおかげで苦境を乗り切ることができました」と三島社長は三宅さんに感謝する。
そんな三宅さんは三島社長をどう思っているのか。
「昔の社長はあれせい、これせいと指示ばかりで、私もやらされてる感があったというか。でもいまは細かい指示はせず、見守ってくれるんです。だから私たちも自分の頭で考え、責任を持って仕事ができるようになりました」。
「この会社おかしい」――社内改革の覚悟
三島社長のそばで、あゆみさんも社内を楽しい環境に変えようと試行錯誤を始めた。
あゆみさんはネイルサロンを経営していたが、結婚を機に同社の仕事を手伝うことになった。ところがいざ働き始めると、「この会社おかしい」と思うようになったという。
「たとえば同じ社内にいるのに直接言葉を交わさず、付箋でやりとりするんです。当時は会社に来るのが嫌で仕方がなかったですね」。
あゆみさんは当時をそう振り返るが、社長の妻という立場だけに簡単に辞めるわけにはいかない。「だったら、笑顔で楽しく働ける環境にしようと腹をくくった」。
あゆみさん率いる社内改革の一例が誕生日会。
「ある社員がファスナー付ビニール袋に缶コーヒーを毎日3缶入れて会社に持ってきているのを見て、ふとん圧縮袋に大量の缶コーヒーを詰めて誕生日にプレゼントしたんです」。
思わぬサプライズで社員は大泣き。以降、社員の誕生日会でプレゼントを渡すのが恒例行事になった。
「でもありきたりなものを贈っても面白くありませんから。社員のことをよく見ていないとわからないような、軽いジョークを含んだプレゼントを渡すのがみしま流(笑)」
三島社長とあゆみさんが顔を見合わせて笑うように、カレー好きの社員にはスーパーに置いてある市販の全種類のルーを贈ったり、馬好きの社員には〝うま〟をかけてうまい棒を大量にプレゼントしたり。アントニオ猪木の名言を持ち出して後輩に何かとアドバイスする社員に対して、猪木のかぶり物を渡したこともある。
誕生日会のほか、ベトナム人実習生を対象に日本語勉強会も開くようになった。事務の女性スタッフが日本語練習用のテキストを独自作成し、週に1度、営業時間終了後に先生役を担ってくれている。
また、逆に実習生が教えるベトナム語教室も開かれるようになった。
「以前は営業時間が終われば帰宅するのが普通でしたが、いまでは自主的に残って協力してくれるんです。本当に嬉しい」とあゆみさん。
ここで紹介した誕生日会や日本語勉強会は一例で、こうしたイベントなどを通じて社員同士の絆を深め、会社の雰囲気が徐々に変わっていった。
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