【長編】会社を「家族」にするためにどうすればいいか。社長と妻の社内改革奮闘記。
同じ釜の飯を食べて取り戻した「家族」
なかでも組織の結束を強めるきっかけとなったのが「弁当」と「みしま食堂」だ。
あゆみさんのお母さんお手製のお弁当を、研修生を含む単身者に週に3度、差し入れて会議室で一緒に食べる。ご飯だけは、会社で炊いている。
さらに月に1~2度、三島社長とあゆみさんが前日から料理を用意し「みしま食堂」をオープン。その日は必ず全社員で一緒に食べる。
なぜ社員と共に食事をするようになったのか。
「それは〝家族〟がこの会社にないと思ったからなんです」と三島社長。
所有と経営が一体化した日本の多くの中小企業は「家族主義経営」で団結し、企業力を発揮して日本経済を底支えしてきた。ところが同社を含め今では、その日本の良き家族主義経営が失われ、組織としての一体感を欠いているという現状がある。
「じゃあどうすれば会社のみんなが家族になれるんだろうって考えたとき、“家族・仲間とは同じ釜の飯を食べるもの”と母からアドバイスをもらって。そこで全社員でお昼を食べる『みしま食堂』のアイデアを思いついたんです」とあゆみさんは説明する。
当初はあゆみさんが自宅で食事を用意していたが、日々の仕事をしながらの準備は簡単ではない。そこであゆみさんの母・英子さんに相談したところ、「お弁当ならつくれるわよ」と協力してくれることに。
その結果、単身者のためのお弁当は週に3回、英子さんがつくってくれることになり、月1~2度開く「みしま食堂」の料理は三島社長とあゆみさんが担当することになった。
さらにあゆみさんのお姉さんの詠子さんがフェイスブックで「お弁当の会」を立ち上げ、当日の弁当のメニューと食材をアップしてくれるように。「お弁当の会」はベトナム人実習生や単身者のスタッフとの交流の場にもなっている。
両氏の思いで社員同士が食卓を囲み、組織が変わり始めた。社員の立花さんは言う。
「昔は社員同士で言いたいことを言えない、あるいは言わない雰囲気がありました。でもいまは自分の意見を気軽に発言できる場があるし、個人個人が持っているものを出せる会社になってきました」。
家族とは、立花さんが語るように何でも言い合える間柄なのかもしれない。
「たとえば本当の家族って、『嫌われたらどうしよう』なんて遠慮することはありませんよね。もちろん喧嘩するときもあるけれど、やっぱり最後は仲直りする。それは理屈抜きに家族だから。もし自分の息子なら叱り飛ばすことも、なぜ同僚には怒れないのか。会社のメンバーも家族になれば、問題の解決は早いと思ったんです」。
そう力を込めるあゆみさん自身が何より家族を大切にしているからこそ、社内の結束のために〝家族〟の絆を求めたのだ。
いまや三島社長にとっても社員たちは家族同然の存在。
「あいつらを幸せにせなあかん。面倒みるのはしんどいけど、ほっとかれへん」。
実習生たちの言葉で日本の古き良き「大家族主義経営」を取り戻し、絆を深めつつある同社。さらに次の展開も視野に入れる。
「それは当社だけでなく、関わる会社すべてを家族にしていくこと。そのためにみしま食堂を社外にオープンし、お得意先や取引先・ご近所の皆さんにも利用してもらえたらと考えています。家族主義経営の良さを日本中、さらに世界中に広めていくのが夢ですね」と三島社長。
このみしま食堂の事業化と共に、社外研修プログラムも実施している。トイレ掃除の実践やクレーム会議などの研修をしたあと、「みしま食堂」をオープン。同社が大切にしている家族主義経営の真髄を他社に伝道するのが目的の研修だ。
家族主義経営の良さを広めるための第一歩を、すでに踏み出している。
(取材・文/高橋武男 写真/福永浩二)