技術にゴールはあれへん 職人は死ぬまで競争や
「俺、負けんの大嫌いやねん」。大学卒業後、江戸時代から錫器を製造する家業に入り、職人気質の世界に反発を覚えた。技術は目で盗めが当たり前で、若手に積極的に教えようとしない。そんなベテラン職人と渡り合うため、「上の連中に絶対真似でけへんことをやったろうとおもた」。
入社して8、9年経った頃。試行錯誤の末、波の動きを表現した模様「さざなみ」を開発し、多くの賞を受賞。自分だけの「武器」を手に入れ、ベテランと比肩できるようになった。
そんな今井さんは現代の名工に認定された職人であり、経営者でもある。とくに力を入れてきたのが「職人集団づくり」。伝統工芸の世界にあって職人を多数抱え、上の世代が若手に手本を示し、分業で各工程のスペシャリストを養成する教育スタイルを確立した。いまや職人は20代の女性3名を含む20名。売上げは社長に就いた2002年の6,800万円から約3億円にまで伸ばした。
伝統工芸は変わらないことに重きを置きがちだが、「そんなもん大きな間違いや」と語気を強める。「時代に必要とされる商品をつくり、需要を生み出す。その結果、伝統工芸を残せるんやんか」。
経営者として会社を成長させつつ、職人としてもファイティングポーズを忘れない。「もっとオモロイもんつくりたいし、技術にゴールはあれへん。職人は死ぬまで競争や」。
▲溶かした錫を型に流し込む「鋳込み」。錫と鋳型の温度調整が決め手。
▲丁寧に削ることで錫独特の銀色の光沢が浮かび上がる。
▲伝統品だけでなく時代に合った新しい錫器をつくり続ける。
(取材・文/高橋武男 写真/福永浩二)