技をつなぐ
「10年は辛抱やな」 森 弘幸さん(写真左)
頑固で無口でお酒が好き。でも趣味は仕事。「今の社長のおじいさんに仕事を教えてもらったんや」という森さんは勤続40年の大ベテラン工場長。アルミ加工を手掛ける布施金属工業にはレディガガの舞台衣装から変圧器のシールドまでさまざまな依頼が持ち込まれる。
40年の間に、アルミ加工の業界も様変わりし、求められるものも仕事の仕方も変わった。でも新しい機械は「操作を覚えるのが邪魔くさい」と、森さんは今も35年選手の旧い機械を使う。
それを補うのは、もはや科学できない人間の五感の技。アルミをたたく時の音を聞き、金属の形状を見て、ハンマーの跳ね返りが伝わる手の感覚で、仕上がりの精度を確認する。
「もう年齢的にもしんどいんやけどな。でも『これはどこもやらんやろなぁ』っていう仕事ばっかり来るからしゃあない」。言葉少ない職人の背中は、若き後輩にとってどんなマニュアル本よりも学びに溢れる教科書だ。
「盗みたいのは技術だけじゃない」 山岸 亮太さん(写真右)
研磨加工を担当する入社2年目の山岸さんは元バンドマン。結婚を機に「生活を安定させたい」と布施金属工業に転職した。
ものづくりの職人としてのスタートラインに立ったばかりだが、仕事の面白さを実感している。今は、空いた時間でたたき板金をもっぱら修行中。
手の平にできた血豆を見て「ハンマーの持ち方とか、力の入れ方が出来てないから、豆ができるみたいです」と笑う山岸さんにとって、工場長の仕事の完成度は神の領域だ。
「でも工場長から学びたいのは技術だけじゃない。技術だけだったら、その人のやり方を真似て、自分なりに消化して自分のものにすればいいだけじゃないですか。でもものづくりへの気持ちとか職人としての生き様とか…そういうものを盗みたいんです」。
工場長の背中から何を学ぶべきかわかっている時点で、山岸さんにも立派な職人魂が宿っている。
(取材・文/Bplatz編集長 山野千枝 写真/福永浩二)