おまえら、ほんまによう食うなぁ。
毎週金曜日はみんなで食べる昼メシ「金曜カレーライス」の日。
<今日は双葉塗装さんにお邪魔しました>
自動車、家電関係の産業機械設備から電車の車両部品、モニュメントまで、さまざまな分野の金属製品の表面処理を手掛ける。用途に応じて、耐熱性、耐久性などの機能性を付加して塗装する。仕上がりの精度を左右するのは人間の手のひらの感覚。一人前になるには5~6年はかかるという職人仕事だ。
2011年に起きたタイの大洪水では、多くの工場で、産業機械が使い物にならなくなったが、同社が塗装した部品が使われた装置は何の問題もなく使えたことが評判になった。今朝の仕事は工作機に使用する部品。
ものづくりを支える表面処理技術。今日は納期が近い仕事が目白押し。
みんな額に汗して一心不乱に働いています。でも今日のお昼はみんな大好き、カレーライス!お昼まで、あともうひと踏ん張り頑張ります。
若手を指導するのは田邊工場長。業務終了後の勉強会や自主練習に付き合う。「仕事は楽しんでやってもらいたいですからね。『うわ、俺ここまでできたやん』っていう小さな成功体験を少しずつ実感してもらえるよう教え方も工夫してます」。
工場長は社長と社員の橋渡し役でもある。現場の思いを社長に伝え、社長に怒られてふさぎ込んでいる社員がいたらフォローする。「ほんま大変ですわ(笑)」。
一昨年、新卒で入社した須田(写真左)さんと今年入社した早瀬さん。二人は、この4月に入社する新人を心待ちにしている。
「僕も、工場長にしてもらったみたいに、仕事を厳しく教えたり、困ったときは助けてあげたりしたい。僕も一緒に成長したい」と須田さん。
あいうえお標語もユニーク!ちなみに、「元気な声で」「語尾を上げて」「笑顔で」話をしないと社長に怒られるそうです(笑)。
まかないを担当するのは社長の奥さん、恵子さん。
野菜たっぷりカレーはみんなに大人気。「一人暮らしの子もいてるから、野菜もいっぱい取らせてあげんとね」。ほんまにおいしそう~。
<ふだんはこんな会社です>
毎週月曜日は地域清掃の日。みんなで朝早く出勤して、ご近所のゴミ拾い。朝から町も心もきれいになって「今日も一日がんばろかー」。
社員総出で準備した、若手社員須田さんの成人式前夜祭は大盛り上がり。
紅白の垂れ幕、紅白まんじゅう、赤飯を用意して、新しい仲間を全員で迎える入社式。
自慢の表面処理技術を駆使して立ち上げたカトラリーの自社ブランド「PA(http://pa-painter.com/)」。
「社員のパンツの色まで気になりまんねん、ガハハハハ」。
カレーライスを頬張る若手に質問攻めの深江社長。若手も社長のオヤジギャグに果敢に切り返して、休憩室は一気にアットホームな空気に包まれる。毎週金曜日恒例の一コマだ。
社長は仕事で失敗した社員を叱ることはない。でも挨拶をしなかったり、思いやりのない行動を取った社員には雷を落とす。元気がない社員がいれば、気になって仕方がない。仕事が終わってから、二時間でも三時間でも夜中まで話し合う。話して話して、とことん話す。仕事のことはいっさい話さない。話すのは人生についてだ。仕事も私生活も関係ない。「今日は踏み込み過ぎたかなぁと反省することもあるけどね」。優しくて厳しい、まさに親父替わり。
父親が営んでいた工場を受け継いでから社員との関係ではずいぶん苦労した。次々に打ち出した新しいルールに反発する社員たちとの衝突は絶えなかった。「いっこも伝わらへんと憤慨してばっかりやったけど、全部自分本位やったんやろね」。
約10年前、42歳を過ぎたころ、自分の理想とする会社を一から作り直そうと決心した。それは社員ととことん向き合うという覚悟だ。
社員とは何度も何度も、何度も話をした。伝わらない悔しさから、誰もいない工場で絶叫したこともある。その間に向き合った相手は自分自身かもしれない。
行きつ戻りつしながらも会社の小さな変化を感じ始めていたある日、妻が「毎週一回みんなで顔を合わせて食事をする日をつくろう」と言い出した。それが8年続く「金曜日カレー」の始まりだ。
衝突やすれ違いは今でもある。でも腹をくくってつくりあげた社員との信頼関係は、いつしかしんどい時も会社を力強く支える土台となっていた。
社員と向き合うために必要なのは時間だけではない。相当の「熱量」をかけて向き合う経営者の覚悟があるかどうか。小さくても強い会社。日本にこんな会社がもっと増えますように。
(取材・文/山野千枝 写真/福永浩二)