従業員大量退職の危機乗り越え、「幸せになるための会社」へ
3年間の銀行勤務を経て父親が営む丸藏(まるくら)に入社した小川氏の目に、船場の老舗生地卸の仕事ぶりはぬるま湯に映った。「銀行時代の経験で、会社といえばどこも数字できっちり管理されているものとばかり思い込んでいたがそうではなかっ
た。このままでは企業としての成長はない」。そう感じた小川氏は、さっそくトップダウンで“改革”に取り掛かる。予算と実績を照らし合わせながら仕事の進捗を管理する有用性を社員に説き、数字にこだわる意識の浸透を図ろうとした。だが笛吹けど踊らず。20人いる社員の半数が短期間で去っていった。ある店舗では5人いる社員がすべて同じ日に辞めるという辛酸もなめた。「何より社員と意識がまったく共有できていなかったことがショックだった」という。
自分が一生懸命やっていれば結果はおのずとついてくると信じていたが、それがひとりよがりだったことに気づいた。会社が向かうべき価値を全社員で共有するため、残った社員とじっくり対話する機会を設けた。毎週、社員からの意見を吸い上げるミーティングを開き、社員が自ら考え、動く、自律型の会社づくりに向け仕組みづくりを始めた。
ハギレからカーテンへ、卸売から小売へと扱い品、売り方の見直しを段階的に進め、2005年にはネットショップも開設した。部屋に1日中こもってサイトの構築作業に集中する小川氏の様子を見て、「売上はいっこうに上がっていないのに」と不満をもらすベテラン社員が現れた。だが、今度は理解してもらえる自信があった。社員には朝礼で進捗状況を逐一報告し続けた。2年目以降にネットでの販売が上がると社内の見る目が変わっていった。
「幸せになるために働く」という思いが社員間に共有されつつある今、「課題や理不尽なことが出てきても楽しむ余裕すら出てきた」という。「乗り越えることでまた一歩幸せに近づけると考えられるようになったから」だ。今後は好調なネットショップを商品カテゴリーごとに分けて専門店化し、それぞれのショップを社員に一人ずつ任せていくつもりだという。社員がよりやりがいを感じられる会社になるために愚直な取り組みは続く。
▲「天は自ら助くるものを助く」
「サミュエル・スマイルズの『自助論』の中で書かれている言葉です。学生時代に本を手にしてこの言葉にめぐりあい、周囲に惑わされるのではなく自分の信じることをやり続けることが大切なのだとわかりました。何かに直面したときこの言葉に立ち返るようにしており、今でも会社の机にはり付けています」。
丸藏株式会社
代表取締役社長
小川 篤太郎氏
設立/1951年 従業員数/30名
事業内容/インテリア関連製品の企画・製造・販売。小売は直営店のほかインターネット、新聞などを通じた通販も展開。卸売も行っている。