【ベンチャー型事業承継のススメ】ファミリービジネスが変える日本の未来
「若殿のご乱心」といわれたクーデター
地元の金融機関や業界団体、古参の社員の間では大騒動になりました。「若殿のご乱心」とまで言われました(笑)。ただ、その中でメインバンクの当時の支店長や頭取が「長野県にもこういう若者がいないとダメだ」と言って、いち早く支持してくれたのです。彼らがいなければ、今の私はなかったと思います。
世代交代時の変革に反対勢力はつきものです。でもひるむことはない。成長ビジョンを描き、ビジョン通りに成長し始めた時に、周囲の目は変わります。後継者に必要なのはビジョンであり、戦略であり、強い意志です。
私はアイスホッケーをやっていたので、「招かれた試合には受けて立つし、受けた限りは勝ちにこだわる」のが信条。だから誰よりも練習しました。家業も同じ。誰よりも自社を検証し、業界や市場を研究しました。
継ぐ側も継がせる側も「潰すくらいの覚悟で」
事業承継時の軋轢を防ぐために、後継者に継がせるまでに時間をかけすぎる会社が多いように思います。これがリスクだと思うんです。先代の風土に慣れきって、後継者のほうもいつの間にか保守的になっている。つまり改革者という役割を果たせない人間になってしまっている。
世代交代は早いほうが絶対にいい。確かに先代や社内との衝突は起こりやすくなりますが、かえって後継者の覚悟が決まるし、後継者が勝ったときは古参の勢力を一掃でき、新しい戦略を妥協なく押し進めることができるというメリットもある。
先代から見ると若い世代がやろうとすることはリスクにしか見えないものです。でも存続への執念が強すぎると事業承継のタイミングが遅れ、時代に合った変革もできず、結果的に生き残れない会社になってしまうというリスクもあります。
継がせる側は、「潰してもいいと思うくらいの覚悟で継いでみろ」とタスキを渡し、タスキを受けるほうも「潰してもいいと思うくらいの覚悟で新しいことに挑戦する」。両者の覚悟が結果的に会社を存続させるんだと思います。
駅伝ランナーもかっこいい
世代交代によって何十年かに一度、大変革が定期的に訪れるから長寿企業は生き残っている。大変革が伴わないスムーズな事業承継は意味がない。現状に何の疑問も持たず改革もしないなら若い世代の役割を果たせていないということです。
僕にはタスキを次代の経営者につないでいくという使命があるので、長期的な視点を持って経営しています。起業家が100m走なら僕は駅伝。でも駅伝もかっこいいでしょ(笑)?
家業を継ぐことがかっこ悪いと思う若者の多くは、親と同じ規模で同じ場所で同じことをやり続けなければいけないと思い込んでいる。これはかっこ悪い。「自分が継いで、伸ばしていく、変えていける」と思えるかです。戦い方や戦う市場を変えていく自由と能力を発揮できる人こそが経営のタスキを受け取るべきだと思います。
▲101年前に開業した星野温泉旅館の現在の姿「星のや軽井沢」。
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