強みは目利き力。自転車メーカー、ユーザー双方から信頼確立
ちょっとした街乗りで楽しむ人からトライアスロンに出場する競技者まで、自転車人気が高まっている。上氏が大阪府内を中心に展開する5つのスポーツサイクル店には5万円から100万円を超えるものまでそろい、来客はひきもきらない。
実家の自転車屋を継ぐつもりだった。だが、「まちの自転車屋で二世代の生活は維持できない」と独立。車1台で始めた自転車修理業で稼いだ資金を元手に3坪の店を構えたのが約20年前。「狭い店で売上をあげるために」と当時珍しかった高価なマウンテンバイクを置いたところすぐに売れた。手応えを感じ、アメリカの展示会に出向いて直接パーツを仕入れ、全国のマニアから「上さんの店なら」との評判を確立するまでになる。
上氏には独特の嗅覚がある。ブランド単体で最新モデルだけを扱うコンセプトショップが現れるや、旧モデルの流通を思案しているであろうメーカーに持ち掛け、業界の常識にはなかったアウトレットショップを国内で初めてオープン。また、人気に火がつく前のブランドを「これは売れる」とメーカーに掛け合って、西日本初のコンセプトショップの運営を任された。この嗅覚を財務面から支えるのがしっかり者の妻・恵子さん。自転車業界は商品が高価なうえに買い取りとリスクが高く「在庫の見極め」も経営手腕の一つだ。
財団法人自転車産業振興協会によると、2011年の自転車国内生産・輸入数量は、車種別で「スポーツ車を含むその他」が前年比31.2%と大幅に増加した。このブームを当て込んで異業種からもスポーツサイクル業界へこぞって参入し、形だけを模した低価格商品もはびこる。「市場が荒れているからこそ本物を見る目も磨かれる」と、扱うブランドを絞ってこだわりの品揃えを続けていくつもりだ。