産創館トピックス/講演録

≪講演録≫愛され、リピートされる秘訣~「CoCo壱番屋」創業者・宗次氏が大切にする顧客満足~

2014.10.23

経営が一番の趣味
最初に喫茶店を出した時、「日商6万円になったら2号店を出そうね」と話していました。翌年その数字に届いたので2号店を出しました。「ママ、この商売に懸けようか。10軒の店を持てたら、1店1800万円で1億8千万円になるからすごいね」と。愛知県の片田舎でしたけれど夢中で、身を捧げて、朝から晩まで働きました。10軒やればその数字が30、50、100、300、500と増えていって、その結果今があります。

ライバル社との差などわずかな1、2ポイントの差ですが、その積み重ね、継続はが大きな差になっていくのです。「お客様を笑顔で迎え、心で拍手」の次に4号店を出した直後に考えたモットーがあります。「ニコニコ、キビキビ、ハキハキ」です。体で表す「ニコニコ、キビキビ、ハキハキ」も大事ですが、その言葉に秘められた内面性、すなわち協調性、感謝の気持ち、意欲、向上心、といった姿勢をこの言葉に込めています。今では世界のお店、韓国でも台湾でも中国でもこの言葉を唱和しています。

食の業態はいろいろありますが、牛丼屋さん、ラーメン屋さんよりも何より多店舗化、チェーン店化しやすいのがカレーの業態じゃないでしょうか。カレーはたくさん作っても経時劣化があまりありませんから、一番チェーン化しやすいのになぜ誰もしてこなかったのか。私は経営者の取り組み姿勢が甘いのではないかなと思っています。10軒にしたら20軒、20軒にしたら30軒というように目標をちゃんと設定して真剣にまた1年間次の目標に向かってやればできるはずです。いきなり30軒の後に200軒にするわけではないのですから。

「俺が社長だ」と言う人はいっぱいいますが、よくそれで社長業やっていけますねと思います。業績を維持して右肩上がりにするのはすべて経営者次第。だからこそ誰よりも厳しく業務に当たるし、役員、社員に対しても厳しい。その先のお客様の満足を考えたら、やはり厳しくなります。そして誰に対しても厳しくあるよりも一番自分に厳しくないとだめです。

私は忙しいランチタイムに、「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」と言いながら洗い場に入ります。狭い休憩室のドアを開けると厨房があります。右手が客席でドアを開けてすぐの壁際に調理什器・設備がレイアウトしてあってその右側がシンクです。ピーク時に洗いものをしなくていいように「お客様の席数の3倍の什器を用意しておいてください」といつも言っています。でもそういう神経を使えない経営者がいます。「いや、これだけの数でじゅうぶん間に合います」と。人員のシフトについても、ゆとりを持ったシフトを組んでくださいといっても、「いや、人がいない」「人件費がかかる」と言い訳をします。予期せずいつものアベレージ以上のお客様がみえた時、とたんに迷惑がかかってしまいます。ランチタイムに50人いたお客さんは40人に減ってしまいます。逆にシフトに余裕を持たせて、いかなるときもちゃんとしたサービスができるようにしていたら、50人がやがて60人になっていくのです。

その理屈がなかなかわかってもらえません。経営者の方は目先の今月の経費、人件費にとらわれすぎなのです。洗浄機のある場所が私は一番好きです。隅っこなので全席が見えるし、厨房の動き、調理の動き、お客様の出入りもすべて見渡せます。伝票を持って席を立たれたら誰よりも早くありがとうございます、と言えます。そうするとフロアで忙しくしているスタッフが、お客様がレジに行く前にレジの中に入れます。外から入るお客様がドアを開けるか否かのその瞬間に「いらっしゃいませ」と言えます。私はあそこが大好きでした。

cocoichi02

営業力を強化したり、ライバル店対策をすればそれは即効性があるかもしれません。地道な取り組みはすぐに目に見えて効果は出てくるものではありません。5年、10年、20年かかります。その代わり誰もまねができません。ライバルは、そこまでやればいいことはわかっていても「とてもあそこまではできない」と認めてくれます。普通はいやですよね。朝早くから休みも取らずに仕事、経営のことばかりでは。
でも私にとっては経営が一番の趣味なのです。経営以上に楽しいことはありますか?お芝居を観に行ったり、飲みに行ったり、ゴルフをしたりとか楽しいかもしれません。でもそんなことばかりに明け暮れていたのではむなしいですよね。社員さんにも申し訳ないし、恥ずかしい。社員さんから、会社に来てください、現場に入ってください、工場に来て社員をほめてやってください、仕事ぶりを見てやってくださいって言われ続けてきました。それが喜びだし、どれほどしんどいときでもお店に入ったら元気になります。

今までは盆暮れだけ営業担当者とお得意先を回っていた社長は、これから毎月1回、2回偶然を装って、「近くに来ましたから、お顔を拝見に来ました」とか言って回ってみてください。「あ、ちょうどいいところに来てくれた、おたくはほかのところと比べても少し高いのはわかっているけども、社長のその姿勢が好きで、社長の会社を応援したいんで、買いたい、買わせてほしい」と思わせる。その代わり夜であろうといつでも困ったときにすぐ飛んでいきます。そうやって少しずつお客さんは増えていくのです。値段ではないのです。

世界に目を見渡すといろいろ紛争の火種があって、天災も起こっています。円安も進んでいます。不安要素のほうが大きいですね。だから自分のお店、会社はやはり社長が中心になって守り続けなければならないのです。誰よりも一生懸命やり続ける。そうしたら何億、何十億の売上げ規模には伸ばしていけるものです。すぐにはならないかもしれませんが、一生懸命一途にやっている姿をお客様や地域の方、社員さんが見てくれていますから。「社長がそこまで一生懸命やるなら私もどこまでもやります」と社員の2割ぐらいは言ってくれます。2割いてくれたら会社は発展していきます。あとは「給料分だけはやりますけれどそれ以上はあてにしないでください」と言わんばかりの人が大半です。それでいいのです。

次ページ >>> 社長業ほど成功率の高い商売はない

株式会社壱番屋

創業者特別顧問

宗次 徳二氏

https://www.ichibanya.co.jp/