人工ガットのパイオニア企業 糸のスペシャリストが生んださまざまなラケット用ガット
テニスラケットのガットに使われる糸の太さはおよそ1.3ミリほどだ。商品のシリーズごとに断面の形状は実にさまざま。異種素材の糸を組み合わせた「UMISHIMA(ウミシマ)」は高コントロール性を、無数の細い糸を束ねてねじった「TECGUT(テックガット)」はソフトな打球感を、1本の太い糸にコーティングを施した「OG-SHEEP(オージー・シープ)」は高耐久性を、といったように発揮したい機能に合わせた糸の組み合わせ、構造になっている。
同社の強みは、これらの糸を紡糸、製紐からコーティングに至るまですべて自社で一貫して製造できることだ。中でも、溶かして長細く押し出した樹脂を引っ張っては冷やし、を繰り返して糸にしていく紡糸の過程は糸の生命線で、温度とスピードを微妙に調整しながら均質で丈夫な糸を作り上げていく。「一貫製造できることによってユーザーの求めるものをすぐに改良に反映させることができる」と酒井氏は言う。
1951年、創業者が合成繊維の時代の到来をいち早くとらえ、まずはナイロン製の釣り糸を市場に送り出し、その後、1954年にラケット市場に参入。それまで羊の腸から作られていた天然ガットに替わってナイロン製の人工糸を使ったガットを日本で初めて開発した。
水に弱い天然ガットの弱点をカバーし、かつ価格も安いことが評価され、世界のトッププロとの専属契約などの宣伝も手伝ってゴーセンブランドは全世界に普及。100カ国を超える国に輸出されるようになり、90年代前半のピーク時には60%の世界シェアを誇った。
だが、90年代に、強い打球を打つことができ耐久性もあるポリエステル製のガットが市場に出始めると急速にシェアを失っていく。「トップとしての奢り、油断がどこかにあった」と戒める。2000年代に入るとシェアは30%台にまで落ち込んでいた。
酒井氏は今、あらためてガットの強化に取り組む。スピン全盛の時代を捉え、球がよりひっかかるように糸を扁平状にした「FG」、さらにはこの断面形状に凹凸加工を施し、スピン性と反発性をさらに高めた「エッグパワー」シリーズなどを商品化し、シェアは底を打って上昇に転じつつある。
目下のテーマは、ポリエステルの高耐久性に限りなく近づけたナイロンガットの開発。「ポリエステルは硬いため肘を痛めやすい。肘に優しいナイロンの特性を生かしながら耐久性の高いガットが目標」だ。「グループ企業、大学などと連携し、総合力で“ガットのゴーセン”の名声を取り戻す」と力強く宣言する。
(取材・文/山口裕史)
株式会社ゴーセン
代表取締役社長
酒井 薫氏
化学原料から原糸をつくり、撚糸、染色、コーティング、そして製品化に至るまで自社内で実施。その用途は、スポーツ用品、釣具、産業資材部門など幅広く、エアバッグ用の縫製糸、手術縫合糸など高シェアの商品を数多く持っている。